神宮前でブラジル音楽を旅した夜 〜ケペル木村のブラジル音楽幻祭夜話Vol.1 @mal di mare〜

久しぶりに風邪をひき、ただでさえ滞りがちな更新もさらに遅れ…。
と、毎度の言い訳はさておき、連休中の南阿佐ヶ谷でのイベントに引き続いてミルトン・ナシメント関連のお勉強。5月20日、ケペル木村さん(有限会社中南米音楽代表)のお話を聴きに、渋谷区神宮前にあるmal di mare(マルディマーレ)に行った。原宿警察署の近く、表通りから少し入ったところにある隠れ家的なバー&レストランで、ムケッカなどのブラジル料理(美味しそう!)もメニューに並ぶ素敵な空間である。

会は、ケペル木村さんがご持参のアナログ盤をターンテーブルでかけながら合間に解説を交えるスタイルで進行。1曲目はミルトンのアルバム“Travessia”収録の“Gira, Girou”。終盤に挿入されるチェロ(ヴィオラ?)とタンバ・トリオのコーラスによるフレーズが耳に残る、マルシオボルジェスとの初共作。ミルトン最初期の名曲だ。ミルトンはこの録音のあとアメリカに渡りアルバムを出す。続いては、そのA&MCTIレコードから2曲。1969年に出たポール・デズモンド(Sax)の“Gira, Girou”カバーバージョン(デズモンド版のタイトルは“Round ‘n’ Round”)。そしてミルトン自身が1968-69にCTIからリリースしたアルバム“Courage”のセルフカバー版の“Gira, Girou”が流れる。
私はルイス・エサのアレンジによるアルバム“Travessia”が個人的には大好きなのだが、“Travessia” の素朴さを生かしたアレンジに比べて、さすがはCTI、米国人好みの(万人好みの?)アッサリと爽やかな印象へと仕上げられている。ひとつの曲がブラジルとアメリカで、大陸の南と北とでこれだけ違う味付けになるとは興味深い(“Courage” のバックミュージシャンはピアノのハービー・ハンコックを除き全員がブラジル人であるにも関わらずだ)。この“Courage” が当時多くの人に受け入れられたのは理解できる。すごく聴きやすいもの。Courage (Dig)
※ちなみにCTI RECORDSの作品群はこちらを参照ください→http://www.dougpayne.com/cti.htm 
さて、この後ケペルさんのお話はどんどん広がっていく。そして徐々にお客さんが一人また一人と増えて店内の盛況感も増していく。ケペルさんのエンジンも全開。ミルトンのデビュー(1967)以前に出たジョアン・ジルベルト他の“Bossa Nova Carnegie Hall”や“GETS GILBERTO” 、またブラジル・インストの名作“Quarteto Novo” 、アントニオ・カルロス・ジョビンの“Stone Flower” といったアルバムを紹介しつつ、あるいはクインシー・ジョーンズマイルス・デイビスキャノンボール・アダレイ、アイルト・モレイラからエルメート・パスコアールといった人脈をたどりつつ、ブラジル音楽がいかにアメリカのポピュラーミュージックに影響を与えてきたかを、丁寧に解き明かしていく。そしてこのブラジル人脈は、やがてサンタナEW&F、エレクトリック・マイルス、そして第一期ウェザー・リポートまで拡大する。「いったいどこまで行くの?」 とやや不安に思い始めたけれども(笑)大丈夫でした、最終的にはウェイン・ショーターとミルトンの共作アルバム“Native Dancer” できれいに環が一つにつながったのである(お見事です!)。
休憩をはさんで約3時間半のレコードライブ(昔フィルムコンサートってあったよね、関係ないか:笑)は、まるでアメリカ大陸を南へ北へとエアロプレーンで行き来するような至福の旅のよう。そして、それはすなわち、解説者・ケペル木村さんの個人的音楽史の一部を共にたどる旅でもあり、ポピュラー音楽のアナザーワールドを未知の視点から俯瞰する団体旅行のようでもあり、それは思いのほか、大変に心地よい体験でありました。カイピリーニャのお酒もグイグイすすみます。ビッチェズ・ブリュー(レガシー・エディション)(DVD付)
そして、私はこの試聴会を通じて、「機知に富んだ作曲や演奏のアイデア」「複数のリズムプレーヤーが生み出す多層的なポリリズム、絶妙のグルーヴ感」「クラシカルなエッセンス」「哀愁を帯びたギターやボーカルの音色」といったブラジルのアーティストの魅力を形づくる要素を再認識することができたような気がします。これからミルトン周辺のアーティストやグループの作品にももっと接してみたいと思います。
それにしてもケペル木村さん、アーティストの生年月日やリリースの年月日とか、クレジット関連の記憶がものすごいです。アルバムの背表紙に小さく載っている参加ミュージシャンやプロデューサー、アレンジャーなどのスタッフリストからたどっていく音楽の深い深い楽しみ方があることを、今さらながらに学んだ夜でありました。
Stone Flower


このイベントの第二回「ケペル木村のブラジル音楽幻祭夜話 Vol.2」が決まったようです。6/17(金) 19:30 - 21:30 会場は同じくマルディマーレさん。詳しくは同店のTwitter(@MalDiMare)やFacebookまで。
mal di mare 東京都渋谷区神宮前3-27-23 Uビル2F(ランチもやっているそうです)

ケペル木村さんはラジオ日本で番組をお持ちです。「ケペル木村の中南米音楽館」(ラジオ日本 日曜日21:00 - 21:30 再放送:水曜日26:30 -27:00)
詳しい情報は→ http://www.mpb-store.jp/2011/04/post_35.html
※聴取できないエリアもあります。また、番組の放送時間帯等が変更になる場合もありますので詳しくはラジオ日本のホームページ等でご確認ください。※(追記)同番組は2011年6月末でいったん放送が終了する予定とのことで残念です。皆さんも残り数回ですがぜひケペル木村さんの素敵なDJによる番組を聴いてみてください。