カチャカチャ、カチャ、パチン!

たぶん、ささくれ立っていたのだ。
浮き世のあれこれで心が若干ささくれ立っていたのだろう。そんな風に聞こえたのは、たぶん……。

昼休みに入った本屋に併設された喫茶店。窓際の長いカウンター席に座り、読書をしていた私の横で何やら「カチャカチャ、カチャ、パチン!」という音がする。音は何度も繰り返される。いったいこれは何の音ですかと横をみると、年の頃50歳代の自営業風のオッちゃんがポータブルのカセットテープレコーダーにイヤホンつけて再生・停止・巻き戻しを繰り返しているのだった。テープ起こしでもしているのだろうか。
これを見た瞬間、うるさいと感じた。そして、さらには、今どきカセットかよ、ICレコーダーならうるさくないのに、なんて不遜な感想を抱いたのである。つまり、ただの雑音だったのが、カセットという音源からのものだと判明したとたんに「超・気に障るノイズ」に変化したのだ。
でも、次にこうも思った。15年前ならこの音、うるさく感じなかったのではないのか? と。そう、 あの頃はカセットがまだ流通していたし。
そして、オッサンの手元から視線を離し、周囲に注意を向けると、携帯電話で客先と話している人がいる。15年、いや10年前なら、この携帯電話を店内で使用する輩には、エエ加減にせんか、このマナー知らず、どついたろかワレェ! とケンカをふっかけるところ……なんて勇気はあの頃も今も全然ないのだが(笑)、そんな風に大いに気に障ったはずの行為に対して、今はイラッとはしてもそこまで腹立たしくはならない。きっと、慣れてしまったのだろう(あるいは諦めたのだろう)。
そう考えると、「ただの雑音」と「ウザいノイズ」の差は紙一重。人によって、時代によっていろいろ違う。
ひょっとして、自分が属している慣習側の音って、あまりうるさく感じないものなのかな? 音に対する感情って時代やカルチャーをなんらかのかたちで映しているのかもな。なんてことを、隣のオッサンの「カチャカチャ、カチャ、パチン!」というノイズを聴きながら、あれこれ考えてしまったわけであります。

さて、喫茶店の背後の席からは、ノートPCのキーボードを叩く「パチパチパチ」音が絶え間なく聞こえてくる。なんかこれまたイラッとくる音!(笑) このノイズも、15年前とはちがって聞こえる音のひとつだ。昔は何らかの先端的なスタイルの象徴のように聞こえた時もあったが、いま電車の座席やカフェで聞こえてくるこの音はヒジョーにダサく感じてしまう。なんでだろう?……そうか、今や指先でツルツル画面をニョー〜のサイレントの時代だからか! あるいはPC自体が一般的になったからかもしれない。

でも、やっぱ、このような場所では手帳にペンで手書きがいちばんエレガントだと思うけどね。と、そう言いながら家に帰ってキーボードをカチャカチャさせて、この記事を入力しているワシがおるわけで、まったく人生は矛盾だらけですね。
書くって何? キーボード入力と手書きの根本的な違いって何? という大問題もあるのだが、それはまた別の話に。

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