ザ・クォリーメンと柴田是真の週末

NHKのBSで年始にいろいろと音楽ドキュメンタリーをやっていた。この週末にようやく録画を見ることができたのだが、その一つ、ビートルズ解散40周年の特集で、前身バンドであったザ・クォリーメンの話をやっていた。John LennonPaul McCartneyが初めて出会ったのが1956年、イギリス・リヴァプールのウールトンという街の教会で行われたザ・クォリーメンのライブだったのだが、そのライブの様子を撮影した有名な写真がある(少年時代のジョン・レノンがカメラ目線で歌ってるあの写真ね)。この番組(オランダのテレビ局制作)は、当時のメンバーとともにこの写真に映っている人たちを一人ひとり探していくという興味深い企画。例の写真は、じつはトリミングされていて、実際はもっと横長だった。そんな公開されなかったエリアに映っていた当時の少女たちを見つけたり、メンバーたちがJohnが当時住んでいたミミ伯母さんの家(現在ナショナル・トラスト)を何十年かぶりに訪ねたりするシーンなど、非常に面白いのだが、いちばん驚いたのが、写真のメンバーたちのすぐ横に映っているピーター・ラドクリフという少年が、当時バンジョー担当のロッドの隣人で、なんと女子マラソンで世界記録をつくったポーラ・ラドクリフの父君(!)。ピーターさん、隣の家に練習しに来ていたJohn Lennonのことも憶えているという。うーむ、なんちゅう面白さだ!

話は変わる。土曜日は今は亡き親友が持っていたHohnerのベースを奥様のところに引き取りに行った(昔、このベースを借りて曲を録音したこともあった。大事にします)。


さらに話は変わって、その足で三井記念美術館の「柴田是真の漆×絵」展に行った。漆の超絶技巧と洒脱なデザイン、そしてユーモアにあふれた絵で知られる柴田是真(1807-1891)だが、10年以上前に国立博物館でその絵を見てからずっと気になっていた作家だった。今回アメリカに買われて(ガメられて)行った作品が初めて里帰りしたのを記念して、国内にある作品と合わせて展示されると聞き日本橋まで行ってきた。
以前に国立博物館で見たのは「漆絵帖」という小品で、牛やら、おじいさんやら、カエルや果物や昆虫などをひとコマ漫画風のシリーズにして漆で描いているものだが、まあこの絵の可愛らしさといったらなくて、しかも現代的なセンスにあふれていたのが印象に残った(隣で見ていた外国の方も絵を見ながらクスッと笑っていたのを思い出す)。今回もこうした絵師としての作品もあってそれも大いに楽しめるのだが、なにより驚いたのは漆職人としての卓越した技術とセンス(…すみません、告白していいですか。漆って、こんなに立体的な芸術だったのですね! 知らんかった。恥ずかしいっ!…)。軽いのに深く、柔らかいのに重厚、そんな漆の特質は、螺鈿、調漆、蒔絵などさまざまな技法を生みだしているわけだが、まあ、この是真のおっさんは言うなれば漆を知り尽くした漆界のイチロー、あるいはバート・バカラックみたいなおっさんですわ(ジャンルが違いすぎる:笑!)。引き出しが無数にあるから、自分のイメージしたものが完璧に再現できるんやね。しかも、呆れるほどに洒落てる(笑)。尾形光琳もすごいセンスやと思ったけど、この漆界のイチローもすごいわ。
ちょっと一つひとつの凄さを細かく説明しにくいけど、例えば、どこからどう見ても金属製の盆に見えるけど、じつは漆と紙でできている器。きっと江戸時代の客がこの器を手にとって「ぎょえええー! なんやこの紙のような軽い器は!」と驚いたはず。そんな客の顔を見て、イヒヒと楽しんでたのかなあ是真おやじ、変わったおっさんやなあと、作品を見る者が微笑む次の瞬間には、その底知れぬ技巧の深遠さに気づき圧倒される、そんな連続なのだ。そして、季節への繊細な眼差しと美意識+ちょっとわざと「着崩す」ような彼独特の味付けが、すべての作品に充ち満ちていて、どのショーケースに歩を進めても、いちいち「ほー! ほっほー!」と声を上げてしまう(もう、すでにアホ:笑)。
まあ、百聞は一見に如かずというけれども、私のこんなヘボ解説を聞くより、お近くの方はぜひ足を運んで是真オヤジの超ハイセンス劇場を楽しんでみてください。会期は2月7日(日)まで@三井記念美術館日本橋室町2-1-1 三井の本館の7階)、その後は京都にも巡回するそうです。会場で図録(2,200円)を買ったが、これまたなかなか充実の内容です。彼の作品は海外にかなりの数が流出していて非常に残念な気もするけども、まあこの人の作品に触れることで海外の人たちが「うーむ、日本人というのは日用品の中にも自然や季節を愛でる気持ちがあって、しかも技術が高くて、センスがよくて、ユーモアもあって、なかなかの文化をもった人たちなのだなあ」と思ってもらえるのであれば、それはそれで良いことなのかもしれんなあ、と思う私でございました。
柴田是真展の案内(三井記念美術館HP)http://www.mitsui-museum.jp/exhibition_01.html

こんな風に一見、三連休を楽しんでいる風なワシであるが、金曜日の夜にクライアントから火曜日の朝提出の宿題を出されて、まったく休んだ気がせんわ(笑)。さてさっさと清書しよ!