ブラジル映画祭など、最近見たモノをつらつらと
秋ですなあ。皆さんいかがお過ごしですか。私、10月の後半はこんな感じで過ごしておりました(私生活は充実:笑)。↓
10月16日 ブラジル映画祭(渋谷ユーロスペース)。『MPB1967』『ノエル・ホーザ〜リオの詩人』を観る。
■『MPB1967』(原題:Uma Noite em 67 ヘナト・テーハ監督)はブラジルで毎年行われていたソング・フェスティバルのドキュメンタリー。1967年当時はブラジル軍事政権下にあったせいか、観客は欲求を爆発させるかのように騒ぎ続けていて相当にノイジー。放送の演出も考えて観客席にマイクを置いていたそうだが、それを差し引いてもすごい。それは初期のビートルズのライブ映像のようなけたたましさだ。出演するアーティストたちがこの観客のエネルギーとどう向き合い、芸の力でどのような方向にもっていったか、その一人ひとりの真剣勝負がこの映画のひとつの見所となっている。あるアーティストは鳴り止まない客のブーイングに逆ギレし、わざと音を外して歌い最後にはギターをたたき壊して観客席に投げ入れる。40年以上後のインタビューも収録されていて、当時の行動についての感想がアーティスト本人の口から語られるところも興味深い。若き日のカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、ホベルト・カルロス、シコ・ブアルキなどはさすがに観客のあしらいがうまい。彼らの歌に知らず知らずのうちに会場全体が一体化していくさまをみていると、その後永く続く彼らの人気の秘密を垣間見るようだ。
■そしてノエル・ホーザは、ブラジルで1930年代に活躍した夭折のシンガー&ソングライター・ギタリスト。26年の短い生涯の中で200以上といわれる作品を残している。『ノエル・ホーザ〜リオの詩人』(原題:Noel Rosa, o Poeta da Vila e do Povo ダシオ・マルタ監督)は、イヴァン・リンスをはじめ数々の後進アーティストあるいは当時を知る人々による証言と貴重な写真や映像をもとにした伝記映画だ。彼については名前とあの特徴的な風貌を知るのみだったが、今回の伝記映画をみて、今さらながらにその類い希な詩人としての、そして作曲家としてのセンスに驚いた。また、リオの人々がどれだけ彼のことをいまでも尊敬し愛しているかを伝えるカーニヴァルのラストシーンでは、もう地球の反対側の私も涙腺がゆるみっぱなし。素晴らしい映画でした。映画館を出たその足で、思わず彼のベストアルバムも購入してしまった(笑)。当日はダシオ・マルタ監督も会場で挨拶され、質疑応答コーナーもあってイベントとしてもとても良かった。仕事が立て込み行くことを断念しかかっていたが、ムリしてでも観てよかった(ケペル木村さんの推薦ツィートに刺激されました)。
■10月22日は、またしても満島ひかりや出演者見たさに 映画「スマグラー」初日舞台挨拶(横浜ブルク13)へ。映画は飽きずに観たけれども、映画としての評価はどうかな(笑)。原作を読んでないのではっきりしたことは言えないがツメの甘さが随所にあったかな。
■そして夜はマルディマーレ(原宿)で「ケペル木村のブラジル音楽幻想夜話」エレクトリック・マイルス鑑賞会。69年以降75年頃までのさまざまな音源から、ライブ1曲目に演奏される”Directions”や”Turnaround”を徹底比較して聴きまくるという驚異のイベント。しかし、こうやって同一楽曲の別テイクを集中的に短時間で聴くと、同じ曲でもバンドのメンバーの構成や錬成度によってもずいぶんノリが違うことがわかる。メンバーがどんどん変わるマイルス・バンドについては、本で読むよりも、こうして聴き比べてみるとバンドとしての変遷のさまが実感として把握できる。刺激的。
■10月27日、フランスの友人の関係でネット上のお知り合いになったジャズ・ピアニストの方が参加しているグループのFM公開録音コンサートがNHKであり見に行った。デンマークのテナーサックス奏者がリーダーだが、その北欧ミュージシャンらしい端正な演奏は非常に心地よかった。
■10月28日は、遠縁にあたる関西の演出家・俳優がプロデュースする演劇を見に池袋の劇場へ。一人で行くのもなんなので観劇趣味のある大学時代の同級生O君に声をかけて、久々の小劇場体験。出し物は「蒲田行進曲」。演出家本人がこの東京公演の直前に入院するというハプニングもあったが、どうにか退院し間に合ったようだ。公演は昼と夜で別の配役・バージョンとなっていて、私が観たのは夜の「狂乱バージョン」。銀四郎(昔、風間杜夫さんがやっていた役)を女性、小夏を男性が演じるという趣向だが、この両者が達者なので違和感なく、というかむしろ倒錯した世界が展開され、非常によかったのではなかろうか。まあ、お笑い要素をふんだんに盛り込みつつも最後は生真面目に終わるといういつもの構成には、観る人によって好みが分かれるところだと思うが、個人的にはこれまで東京で観た彼らの公演のなかでは一番のまとまりだったと思った。健康に気をつけてこれからもますます演劇道を突き進んでください。
さて、これからもまだまだいろいろ観に行きますよ!