ボケ中年伝説 その1

「歯磨きしなくちゃ」と洗面所で歯ブラシを手にとり、歯磨き粉をつけてブラッシング開始。
ところが、何かヘンだ。
なんだ、この温もった柄(え)は! なんでこの柄はこんなにぬくいのか。
オレの頭の中に「都市伝説」の四文字が浮かぶ。
歯ブラシ立てを思わず確認。べつに加熱される要素はない。電熱器が仕込まれている様子もない。直射日光でも当たったか? いや、ここは家のまん中、そんなはずはない。お湯でもかかったか? 否、混合水栓は「水」の方だ。
「おっかしいなあ…………アッ!」

オレは気づいた。つい1分前まで念入りに歯を磨いたあとだったことを。そして1分もしないうちにその事実を完全に忘却していたことを……

オレは膝から崩れ落ちた。温もりきった歯ブラシを目の前にかざしたままで。