アカザルレコード(1) B.J. トーマス “EVERYBODY’S OUT OF TOWN”


 さてと、オシリ修理報告ばかりでも何なので(笑)、これから手持ちのアルバムやアーティストのご紹介などを時々埋め草にやってみようかなと。題して「アカザルコレクション」。第一回のアーティストはB.J.トーマス。いきなり古いぞ(笑)。
B.J.トーマスはバカラックの“Raindrops Keep Fallin’ on My Head”などの名唱で有名だが、1973年のアルバム“SONGS”とその前作“BILLY JOE THOMAS”(1972)は、外れ曲なし&美メロ揃いの大傑作。まあ彼は言ってみれば米国版徳永英明というか、素晴らしい歌唱で原曲の良さを引き出してくれるカバーの名手。彼のボーカルは映像的というか、歌を聴いているだけで映画のような風景の中に自分がいるような気になる。不世出の素晴らしいシンガーやね。
今回紹介するのは、2005年頃に私が神保町で買ってきたアナログ盤“EVERYBODY’S OUT OF TOWN”。どうやら1970年あたりのブツらしい。右肩にドリルホールが開いている。プロモ盤と思われる。ホームページで確認したら、正規盤とは曲順が違う。つまり前所有者はタダで手に入れた宣伝用のサンプル盤を売却したのだな。うらやましいぞ、業界関係者!
一曲目、ニルソンの名曲“Everybody’s Talkin’”。しかも通常では考えられないBメロから始まってるぞ。起承転結で言うところの「承」から始まるのだから何を考えているのだ。ひょっとしてプロモ盤のせいか? 正規盤を一度聴いてみたい……しかし、しかしだ。やはり上手い! ニルソン・バージョンはもちろんいい。でも、この人のハスキー&ヴィブラートの絶妙なヴォイスブレンドの味わいは他の追随を許さぬ素敵さなのだ。しかもタイム感が素直で、原曲の趣を大切にしながらさらに魅力アップに導く技術の高さをいかんなく発揮している。あまりソウルフルではないけども、逆にこのあっさり感がニクいところだ。しつこくないので、何度でも聴いていられる。腕のいい職人が出してくれる蕎麦のようだ。なにしろこの人のボーカルにかかったとたん、その曲はキラキラと輝きはじめる。なんて歌が上手いんだろう(当たり前すぎる感想:汗)。聴いているうちに、Bメロから始まる方がむしろ「正調」とさえ思えてくるほどだ。
ジャケットも素敵だ。ウォールストリートの街角にレザーコートにでかいサングラス姿で佇むB.J.がまたイカす。まさに70年代というイメージ。中ジャケには、雨上がりのどんより曇ったニューヨーク、某米国系飲料メーカーの屋外看板を背に、片足をジメジメとした車道に、もう一方の足を舗道にのせて両手はポケットに突っ込んではいポーズ!……B.J.寒いのか? ニューヨークの冬は寒いのか?(笑) それにしても渋すぎるぞ! 背景にルーズなピントで見えるニューヨークの街が心なしか初期の刑事コロンボの世界を連想させる。あ、あれはロサンゼルスの話だったか……。まあ細かいことはいい。とにかく、少年期の私の心に残るニューヨークの風景そのままなのだ。うーん、これまたたまらん! ちなみに裏ジャケは、薄暗いビル街の裏道を歩くB.J.の後ろ姿だ。表からのジャケ写三点のシリーズは、何やら彼の心象風景のようでもある。他の収録曲も名曲揃い。当たり前だ、B.J.が歌えばあらゆる歌が名曲になるのだ。ウソだと思ったら彼のアルバムをどれでもいいから聴いてみてほしい。これだからBJ体験はやめられん。あのお方のアルバム、めちゃくちゃたくさんあるらしいけど。
B.J. Thomas Website http://www.bjthomas.com/index.html
このように素晴らしい作品を発表していたB.J.だが、70年代後半にドラッグの問題を抱えるようになり、その後復帰はしたものの、その実力に見合った活躍をしているとは言い難い。しかし、その歌唱力と歌詞世界の構築力は現役ポップス・シンガーの中でもいまだに最高レベルにあるのではないかと私は思うのである。
1989年だったと記憶しているが武道館で行われたYAMAHA主催の世界歌謡祭(これまた懐かしい)でたまたま彼のステージを見ることができ、素晴らしい歌声を聴くことができたのはラッキーだった。このときは他にもジョアン・ボスコやスティーヴィー・ワンダー、マティア・バザールやボニー・タイラー、スード・エコー(!)も出演していた。豪華である。関係ないが、司会者はジュディ・オングと上条恒彦だった。ほんとに関係ない。

EVERYBODY’S OUT OF TOWN (プロモ盤につき曲順は正式盤と違う)
A side
Everybody's Talking / Everybody's Out Of Town / The Mask / I Just Can't Help Believing / Send My Picture To Scranton, PA
B side
What It Does It Take / Oh Me Oh My / Created For A Man / Sandman / Bridge Over Troubled Waters
( Scepter Records 1970 )
中ジャケ

裏ジャケ

60年代の映像も