DCPRGのライブを初めて見た@新木場

DCPRG@新木場STUDIO COAST(2012/04/12)。

先週、菊地成孔氏率いるDCPRGのライブに初参戦したので忘れぬうちにレポート。

会場には開演時間ぎりぎりに到着した。ちょうどステージではフロントアクトのキラースメルス菱田氏のバックで菊地氏はサックスを吹いていた。後にして思えば、この日菊地氏がサックスを演奏したのはこの時のみ。本編のDCPRGではサックスプレーヤーは2人もいて、本人は時折キーボードを弾き、CDJをこなし、時にはラッパーにもなるが、基本的にはコンダクターだった(つまり、キラースメルスに間に合わなかった人はサックスが聴けずじまいだったということになる:笑)。
つまり、DCPRGとはそういうバンドであり、ユニットなのだ。

CDでDCPRGを聴くと強く印象づけられるエレクトリック・マイルスの影響。だが、見た目の大人数とポリリズム的な要素にはいくぶん感じられるものの、ライブを見たところではマイルスへのオマージュ的な要素はあくまで今のDCPRGでは一要素では?と思った。両者を分けるのは、いわゆる「祝祭感」。この大人数のバンドから感じたのは、「みんないらっしゃい、一人ひとりの好きな感じで踊りましょうよ」というメッセージであり、ある種のハッピーなカオス的な空間を生み出す力だ。

しかし、これが踊りやすい音楽かというとまた違う。一気にフロアを乗せていく時間帯もあれば、客を突き放すかのようなシークエンスもある。拍の取りやすいファンク系のバンドと違って、そのノリはもっと細かく不規則に揺さぶられる感じだ。微妙な揺れであるとか、リズム的な訛り、ズレが生み出す複雑なビートなどが生演奏というアナログ的で計算できないものから生み出されていて、結果的にHIP HOPのライムのリズム感と近づいていく。そこが面白い。実際に、客演のSIMILAB(シミラボ)と合わせたときにはフロアの興奮も最高潮に達した。HIP HOPとの親和性……DCPRGというユニットの今日性がここにも表れている。途中に挿入された千住宗臣氏のドラムソロも、そうしたリズム的な訛りを絶妙なカタチでプレゼンテーションしたものだったし(緻密で、すごく良かったです)。

また感じたのは、このユニットは、ジャズ、ロック、ワールドミュージック、ファンク…いろいろなファン層のための入口を設けてある(ジャズ・オリエンテッドの)装置なのだなということ。間口を非常に広くとっていて、それはあざといという感想すら覚えるほどのウルトラ広角設定なのだ。その象徴的な存在が大村孝佳氏(g)。ロック色の強いギタープレイ、そしてビジュアル系と呼んでもよいルックス(床置きのファンで風を送りさらさらロングヘアーがたなびく演出が付くギタリストがジャズ界にいただろうか!笑)。ロック系のお客様も楽しめますよ、ビジュアル系のお客様もどうぞいらっしゃいという無言の菊地氏の呼びかけが大村氏というメディアを通じて舞台上手からガンガン送られてくるのだ。そしてステージ上のメンバーを見れば、コアなジャズファンに向けられた「エントランス」もあれば、ワールドミュージック系、さらにはオタク系それぞれに門戸が開かれている、そんな仕掛けも感じるし。

そう、これはDCPRGという、ひとつのフェスなのだろう。いろいろな個性のミュージシャンが重層的に生み出す音の万国博覧会に、いろいろな音楽嗜好・バックグランドを持つオーディエンスが集まり、それぞれのグルーヴと距離感でライブ体験をこれまたポリリズミックに楽しむという、非常に新しい楽しみ方のできるフェスなのだ。そして、その広い間口からこの狂乱のポリリズムフェスに取り込まれた聴衆たちはやがてどんな漏斗の細い管の中に収斂され、どこに連れて行かれるのだろう? その行き先は菊地氏だけが知っているのだろうか?(笑)

こうした、あらゆる要素をごった煮にしたミクスチャー的なライブが成立するのもジャズならでは、という言い方もできるかもなと思いつつ、音楽を通じて多くの面白いことを次々に提供してくれるジャズミュージシャン菊地成孔からはやはり目が離せないと感じた夜だった。

さて、ここからは余談。

◎途中、SIMI LABとのジョイントではあまりに盛り上がりすぎて、観客の大部分が「右手を差し出し人差し指立ててタテブリ」する、国内ロックフェスでよく見かける例の光景が現れたりした(このときは一瞬帰ろうかと思った:笑)。

◎それにしても、この日最大の収穫はSIMILAB。彼らのルックスやパフォーマンスを見ていると、日本も、知らず知らずのうちに、ずいぶん新しい時代にすでに突入してしまっているのだなと感慨深かったし、それを実感することは、けっこう心地よい体験だった。

◎隣にはマッシュルームカットの髪を狂ったように振り回して踊るヘッドバンキング男が、また目の前には頭髪爆発横揺れ男がいて、ステージに今一つ集中できずにいたのだが(笑)、面白かったのは本編のラストでマイルスのDuranのカバー『Duran feat. “DOPE”(78) by AMIRI BARAKA』が始まったとたんに、このヘッドバンキング男も横揺れ男も動きを止めてじっとステージを見ていたこと。たぶん、この曲がいちばんファンク、ロックに近くてノリが変わったからかも。いや、単に彼らが疲れたからかも(笑)。

◎このDuranは、ライブ前から自分としてはいちばん期待していた曲で、大村氏のギターが入る瞬間を今か今かと(頭髪爆発男の頭の隙間から覗き込んで)待ち構えていたのだが、残念なことに他の楽器の音が大きくて肝心のギターの音がよく聞こえなかった。残念!

◎さすがに類家心平氏のペットは凄い。この音のカオスの中ではサックスよりトランペットの音の方が断然立つ。そして、この大編成のバンドサウンドの背骨をしっかり支えているのはベースだということもよくわかった。そこにドラムを含めた他の楽器が乗っかっていって、色彩を添えていく感じだった。