KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BANDライブに感じた「浮遊感」


なんということでしょう…何年ぶりかのライブ感想ブログアップです(面目ない 笑)。


2017年4月16日(日)
KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BAND at Motion Blue Yokohama (1st stage)

Member:
Kurt Rosenwinkel (g. vo.)
Pedro Martins (g. key. vo.)
Olivia Trummer (p. key. vo.)
Frederico Heliodoro (b. vo.)
Antonio Loureiro (per. syn. vo.)
Bill Campbell (ds)


「浮遊感」――ブラジル、とりわけミナス系の音楽を表現する際によく使われる言葉だ。あのフワッと天空を飛ぶような音の特長を伝えるのに非常に便利な言葉だが、特に意味合いを定義されているわけでもなく、安易に使われがちなワードかもしれない。カート・ローゼンウィンケルが、自身の愛するブラジル音楽に挑戦したアルバム『CAIPI』。その素晴らしいライブを聴いて「浮遊感」とは何か、自分なりにいろいろと感じるものがあったので取り急ぎメモを。

(自分にとっての浮遊感とは?…うまく伝えられるか自信はありませんが、こんな感じ→)人間の声とギターやキーボードなど上物の楽器が奏でる旋律があり、ハーモニーがある。そしてそれらの上物が、自在に展開する拍子と多彩なリズムの上に載ることで揺れるような、滑るような感覚が生まれる。さらに音響面も含めた全ての要素がミックスされた時に、聴く者はまるでらせん状の階段を天空に向けてスルスルと上っていくような感覚になる。

このCAIPIバンドはドラムスのビル・キャンベル以外のメンバーが全員コーラスを担っている。彼らの声が混じり合い奏でる美しい旋律に、カート・ローゼンウィンケルの独特のリヴァーブの効いたギターの音色がまるで6番目の人間の声のように融合する(ライブ中に人間の声と錯覚する場面が何度もあった。ギターシンセ的な音だったが、機材について詳しくは確認できていない)。ボーカルとカート&ペドロ・マルチンスのギター、オリヴィア・トルマーとペドロ・マルチンスのキーボード、そして時折奏でられるアントニオ・ロウレイロのシンセが天空を舞い、リズムと低音部を下支えするフレデリコ・エリオドーロのエレキベースとロウレイロ、キャンベル、そしてトルマーのピアノが大地を揺らし濃密な空気の上昇気流を巻き起こす。そのリズムは、ときにサンバのように、あるいはキューバ音楽のクラーベやニューオーリンズセカンドラインのように、また曲によっては力強くロック風にと展開に合わせて多彩に表情を変える(涙こそ流さなかったけど、この「上物」と「リズム」の波状攻撃が織りなす「浮遊感」とバンドサウンドの素晴らしさに心の中で感涙にむせび泣いていた私です)。

今回、アントニオ・ロウレイロがパーカッションで参加しており、どのような役割をするのか注意して見ていた。ビル・キャンベルは今回初めて見たが、その経歴を調べるとジャズだけでなくヒップホップやロック・ポップス系のアーティストのバックも多く務めている万能型の人で、いい意味で「北米的」なドラムを叩く。あれほどのドラムスとピアノの技術をもつロウレイロをこのポジションに置くのはもったいないのではないかと最初は思ったが、キャンベルがレギュラーのドラマーで外せないとすれば、ロウレイロはそこに南米の味付けをする役割ということだったのかもしれない。演奏中も、ドラムス&パーカッション・セットで空間を埋め、時折シンセで印象的なフィルを入れており、ローゼンウィンケルのイメージする密度の高い音世界を再現するうえで非常に効果的だったと思われる。キャンベルのドラムが素晴らしいのと、ロウレイロという調味料が入ることによる効果を実感できたので、彼の役割については納得。

もう一人、フレデリコ・エリオドーロは以前から彼のアルバム『Verano』を愛聴していたこともあり、期待していたが、その期待を上回るベースの腕前だった。いつか彼のトリオも生で聴いてみたい。オリヴィア・トルマーのピアノの華やかさもナイス。ペドロ・マルチンスについてはギターに加え、その声とルックスも含めて「南米から新星現る」という印象だろうか。

セットリストは、CAIPI収録曲を中心に、おそらくブルーノート東京の1stに近い構成だったはず。CASIO ESCHERもやったし、アンコールはPORTUGUESE。『SILVER FLAME』という古い曲もやってくれました(セットリストがもしわかることがあれば後日追記します)。あと、一見カオスとも思えるバンドサウンドなのによく聴くと細かなフレーズやタッチがきちんと解像され、全体的な音響も素晴らしかったと思う。

終盤のMCでローゼンウィンケルが「今日はイースター・サンデーだよね。去年のちょうどイースター・サンデーにCAIPIのアルバムが仕上がったんだよ。だから今日は『CAIPI』の再誕生の日なんだ」というような内容のことを話していた。このバンドの来日公演は今日で最後だが、もう一度来日してくれるなら全公演見たいかも。それほどに感動したし、最高の浮遊感を楽ませてもらったライブだった。

※0417 12:50記:最初のアップ時から記事内容を数カ所訂正しました。