生で聴いた『Live Today』は、けっこうガツンと来たのであった(デリック・ホッジ at ブルーノート東京)
昨夜はデリック・ホッジ(Derrick Hodge)のブルーノート東京2ndステージを見たので、感想を少し。
デリック・ホッジはロバート・グラスパー・エクスペリメント(Robert Glasper Experiment)のメンバーであり、マックスウェルやジル・スコット等の作品を支えてきたベーシスト・作曲家。昨年8月に初のリーダーアルバム『Live Today』を発表しており、今回は自身のバンドを率いての来日。
メンバーはデリック(b)、キーヨン・ハロルド(Keyon Harrold / tp)、マイケル・アーバーグ(Michael Aaberg / kbds)、フェデリコ・ゴンサレス・ペーニャ(Federico Gonzalez Peña / kbds)、そしてマーク・コレンバーグ(Mark Colenburg / ds)という顔ぶれ。来日が決まってからメンバーが大幅に入れ替わったようだが、キーヨンはマックスウェルやJay-Z、ビヨンセ、ジョス・ストーンからグレゴリー・ポーター、デヴィッド・サンボーンまで数多くの作品に参加する腕利きの奏者。また、フェデリコの演奏クレジットを調べると、ミシェル・ンデゲオチェロ、マーカス・ミラー、ケニー・ギャレット、チャカ・カーンなどのビッグネームが並ぶ。こうしたメンバーの幅広い共演履歴からもわかるように、デリック・ホッジの『Live Today』は、ジャズ、ヒップホップ、R&B、ゴスペル、フォークなどのジャンルを越え、現代ブラックミュージックのひとつの進化形を示す作品として注目されている。
ライブを聴いてまず感じたのは、デリック・ホッジのエレキベース(四弦)の音の良さ。芯があって、しかも豊かに響くイイ音なのだ。そこに、マーク・コレンバーグのドラムが絡む。彼の生演奏を初めて見たが、予想をいい意味で裏切るものだった。CDで聴くと手数の多いプログレ色の強いドラマーなのかと勝手に思っていたが、いやいや生音のコレンバーグは、ジャズドラマーでした。サウンド的には、残響の少ない音というか、あえてドラムを響かせないパーカッシブな奏法が特徴だろうか。肘とスティックの全体で叩きつけるようなアクション。力で「鳴り」を抑え込むかのようなバシッ!バッシッ!という音で、ジャズやアフロなどの色の強い身体性の高いビートを叩き出す。もちろん、曲により、また曲のパートによって叩き方は繊細に変えているのだが、この乾いた鳴りの少ない強烈な打音が潤い成分多めのデリック・ホッジのベース・サウンドとよい対比をみせていて、なるほど、この両者の生み出す「乾」と「潤」のコントラストは面白いなと感じた。
さて、デリック・ホッジの方はというとMCなどを聴いてもすごく真摯でマジメな感じだし、きっと常識のあるバランスのとれた人格なのではないかと……。それが彼の生み出す音楽にも表れているのだろうという感想だ。『Live Today』にしても、いい意味で総合的に調和のとれた音づくりがなされているし。これは同じジャズベーシストでありコンポーザーのエスペランサ・スポルディングにも共通することだが、ジャンルを超えたさまざまな音の素材を集め、小さなディテールを丁寧に作り込んでいきつつ、トータルには「まろやかな美味しい音楽に」仕上げていく手腕とセンスがある。これは私の印象だが、ベーシストがプロデュースする作品は、他のリード楽器奏者が作るものと違い、そうした音楽全体の肌触りの良さを大切にしたものが多いように思う。たぶん、曲の間休めないリズム楽器でありハーモニーを下支えする楽器でもあるベースを弾く人って、全体への目配せの能力が高いのじゃないかな。そして、エスペランサやデリック・ホッジのように、刺激にあふれた細部をバランスよく「今の音楽」として(ある意味中庸な感じに)まとめ上げていく、そんなクロスオーバー志向の人たちが自分は好きなことを再認識しました。
話は戻るが、生音で聴くデリック・ホッジとマーク・コレンバーグはやはりジャズミュージシャンだった。アンコールの「Gritty Folk」はCDで聴くよりずっとヘヴィでアヴァンギャルドな音で、エレクトリック期のマイルスバンドを少し連想させたし、なんかマイルスが生きていたらこの二人をバックに呼んだりして…とか、そんなことも考えたり。
ただ、ドラムがマーク・コレンバーグでなかったら、昨晩のライブはどうなっただろう。あのコレンバーグの時折みせる“荒ぶる魂の解放”的な鬼気迫るドラミングの要素がなかったら? 例えばもっとキレイな音の端正なプレイスタイルのジャズドラマーだったら? ちょっと音がまろやか過ぎて退屈したかもなあ(事実、ベースソロの曲では美しすぎて睡魔が襲ってきたし:笑)。そう思うと、この人選は正しかったのね。あ、万能選手のトランペッター、キーヨン・ハロルドも他の二人も素晴らしかったです。
Set List (January 10 / 2nd)
1 The Real
2 Boro March
3 Anthem In 7
4 Still The One
5 Dances With Ancestors
6 Holding Onto You
7 Message Of Hope
8 Gritty Folk