愛すべき天才、エルメート・パスコアールをまとめ聴き 〜ケペル木村のブラジル音楽幻祭夜話Vol.2@mai di mare

6/17(金)の夜は、ケペル木村さんのブラジル音楽幻祭夜話VOL.2(会場:神宮前のmal di mare)。今回はブラジルの奇才、エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)の特集。この6月22日に75回目の誕生日を迎えるエルメート翁は、フルート、ピアノやアコーディオンをはじめとする鍵盤楽器類、打楽器、トランペット、サックス、フルート、ガットギターやバンドーラその他弦楽器を演奏するだけでなく、笛、ヤカン、ミシン、チューブ、水、髭(!)他、ありとあらゆるモノで音楽を奏でる真のマルチプレーヤーであり天才作曲家。北東部の経済的に恵まれないアラゴア州の出身で、身体的なハンディキャップがあった彼は屋外に出ることを控え家の中で音楽に親しみ、アコーディオンをはじめ数多くの楽器を独学で習得していったのだという。会は、1967年の“QUARTETO NOVO”以来、エルメートが参加した録音を時系列に追っていくという流れで進行。アメリカで参加したデューク・ピアソンのアルバム、エルメート自身のリーダーアルバム、エルメートがフルート等で参加したマイルス・デイビス「ライヴ・イヴル」、ウーゴ・ファットルーソらと結成したOPAのアルバム、その他「ムジカ・リーブレ」をはじめとするソロアルバムなど数多くの音源から紹介された。ムケッカなどブラジル料理の小皿をつつきながらの贅沢な時間が流れる。
ア・ムジカ・リヴリ・ジ・エルメート・パスコアル
正直いうと、前回の幻祭夜話VOL.1以前はよく知らないアーティストだった、エルメートさん。で、今回こうして彼の音楽を聴いていて思うことは、重層的なメロディーやアレンジの独創性、そして演奏技術の高さに感心するのはもちろんだが、その飽くなき探求心と自由な精神がスーパーだなと。どうやら毎日1曲ずつ作曲しているという噂もあるが(!)、昔も75歳を迎える今でも、無尽蔵な創造エネルギーが泉のように湧き続けている、そのこと自体が凄いと思うのですね。ジャンルは違うけれども、この尽きせぬ創造意欲というのは、例えばキャプテン・ビーフハートフランク・ザッパ、レッド・クレイヨーラ(メイヨ・トンプソン)、あるいはダニエル・ジョンストンといった人々とも通じるし、まさに「生まれついての表現者」なのだろう。
[asin:B000025JM5:image:small]
Slaves Mass
面白いエピソードを披露していただいた。ケペル木村さんと数名の方々が数年前のエルメートの誕生日に東京で自主誕生会を開いたときの話。「東京であなたの誕生会を勝手にやらせていただきます」とエルメートにメールでことわりを入れたところ、なんとエルメートから彼の肉筆による新曲スコアがFAXで送られてきたのだそうだ。すごい! ネット等で彼のライブ映像を見ると、奇声を発したり、ヘンなモノを楽器として使っていたり、しかもあの真っ白な長髪と長髭の容貌だから、けっこうな変人ではないかと思いがちだが、じつは純粋に音楽好きで、あふれる創作欲を止められない愛すべき人なのではないか。そんなことを感じさせる逸話ですね。ケペル木村さんによると実際のエルメートご自身も非常に繊細に心配りをしてくれるいい人なのだそうだ。おそらく世界中のエルメートファンも、音楽はもちろん、彼のこうした人柄、人を楽しませようとする心意気を感じ取って彼を好きになるのだろう。「音という材料を使って、自分のイマジネーションとともに、聴く人の心の枠も広げ続ける人」――エルメート・パスコアール。ここにも音楽の巨人がまた一人。

オフィシャルサイトがかなり面白いです。詳細なディスコグラフィー、自筆のスコア集などが見られます。クリックするたびにイチイチ、素っ頓狂な音が出るし。
Hermeto Pascoalオフィシャルサイト http://www.hermetopascoal.com.br/

YouTube等にもいろいろ映像があり、ご興味のある方は探してみてください。この2004年の東京公演はオーディエンスとの間のヴァイヴが感動的。