劇団、本谷有希子「甘え」を観た

劇団、本谷有希子の公演「甘え」(青山円形劇場)を見に行った。演劇自体あまり見に行く方ではないが、今が旬の人の舞台はどんなものやらと思って。何しろ職場から歩いて2分程度の場所という立地もグー。あっという間に会場に着くのがうれしい。そしたらやね、開場前に入口でうろうろしている私の前に、買い物袋を持った渡辺え●さん(と思しき人物)が歩いてきて「甘え」のポスターをじっと見てたと思ったら去っていったのですよ。ラッキー。

さて、会場に入る。円形劇場ということで中央に舞台があるのだが、非常にシンプルな造作で、舞台とカーテン以外にはセットらしきものはほとんどなし。そこで小池栄子安藤玉恵広岡由里子、大河内浩、水橋研二の5人の役者だけの芝居が展開される。主役は小池栄子演じる、父(大河内)から虐待を受けながら自意識に縛られて家から出られない順という名の娘だが、そこに親友(安藤)、その先輩(水橋)、父の再婚相手(広岡)が相互に絡み、それぞれの登場人物間のショートストーリーが有機的に連関していく構成。本を読みすぎて頭でっかちで、自己流に考えすぎて勝手な価値観を作り上げてしまったがために自分の思うように行動できない、そんな順を小池さんは好演していた。それ以上にさすがと思わせたのは他の役者たち。とくにこの女優陣は上手いわ(安藤玉恵さんはどこかで見たと思ったら、ドラマ「深夜食堂」で印象的なストリッパー役を演じていた)。強圧的で暴力的なのだが心に非常に深い闇をもつ父、その父の恋人で何度も結婚・離婚を繰り返す女、非常識で不道徳な言動・行動を楽しんでいる先輩、嫌われたくないがために「まわされる」ことも受け容れてしまう友人。登場人物たちはめいめいに困ったところを抱えているのだが、単純な主人公の成長物語ではなく、ストーリーが進むにつれ、登場人物のそれぞれが新しいキャラクターを獲得していく様が非常に面白いと思った。頭で考えすぎて、先が読めてしまうような気がして、行動が起こせない。そしてあげくの果てに自分が悪いと思って鬱っていく順。それって、オレじゃん!(笑) でも、こういうセルフツッコミを入れたくなった人、観客席にもいっぱいいたと思うね。途中で父親が言う台詞で「罪悪感とか、手でつかめないものはみんな屁だ!」というのがあって、非常に印象的なのだが、言葉でものを考えてしまう癖をつけてしまった人間の哀しさを言い当てていると思ったですよ。その他にも、台詞がたいへん現代劇として巧みで、簡単にいえばこの時代の言葉として自然で、しかも笑いのツボを的確にとらえていて、テーマのみならずこのあたりの台詞のキレもまさに現代の芝居、さすが旬の脚本・演出だと感じた。途中で挿入される音楽も良かったし、登場人物どうしがダンスするシーンも異化作用の効果があって私としては好きでしたよ。
小池さんの多才さとその立ち姿の美しさに感心し(鼻高っ! 顔小さっ!)、水橋さんや広岡さんの支離滅裂な言動に笑い、安藤さんの純度の高い芝居に感動し、大河内さんの二面性のあるオッサンを演じる迫力にも圧倒された(風呂入っているシーンで歌う、Superstarが不思議な味わい。この選曲によって、話の舞台が地方だとは思うけど、日本のどのあたりなのかさっぱりわからなくなった:笑)。何より、驚いたのが開演前の本谷さんのナレーション。意外なアニメ声! どうやらアニメの声優もされていたことがあるようで、みょーに納得。また次の作品も見てみたいと思った、大人の旬の演劇体験でございました。
そういえばタイトルの「甘え」って、人間関係の甘えというより、自分の価値観とか言葉で処理してしまおうとする自分の頭への甘えということかな。身体性の回復をしたいのだが、なかなかできないテキスト&ロジック型人間の哀しさがテーマにあったような気がします。
ちなみにこのポスターの絵柄はイメージです(笑)