ハコで体験した、まったく新しい姿のMr. Tambourine Man
昨日はBob Dylanの東京初日を見に行った。当日まで会場を赤坂ブリッツだと勘違いしていて、家を出る直前に路線検索するついでにブリッツのホームページを確認するとBob Dylanのボも出ていない……なんと、会場はお台場のZepp東京だった。よかった、気づいたのが赤坂に行った後じゃなくて!
そしてやってきましたお台場・有明、だだっ広い埋め立て地のなかにあるライブ会場のまわりはすでに長蛇の列。整理番号はAブロックの1300番台なので並ぶ必要もないかと思ったのだが、会場に入るとステージに近い前半分がA、後ろがBとなっていて、すでに人がぎっしり。まさに立錐の余地もないとはこのことで、どうにか満員電車状態のなかをステージ向かって左の位置をヨメさんとキープ。しかし、トイレにちょっと出て戻るとさらに混雑は進んでおり元の場所に戻るだけでも大仕事。たしかにオールスタンディングであることは了解しているのだが、見知らぬオッサンたち(まあ、ワシもれっきとしたおっさんなのだけども)と身体を密着させながら何十分も開演を待つのはかなりの苦行であった。チケット代12、000円×2名分にしてこのハードワーク(オールスタンディングの単独公演では最高値なのではなかろうか)。ああ。持病の腰がつらい…さらには、目の前にいる長身のチューリップハットと、その前の列にいるビリケン型の禿頭(これまた長身)がいて、特定の方向がややもすると視界ゼロになるのも心配だぞ。17時過ぎに開演したが、いやな予感は的中した。Bobの立ち位置(ステージの中央ではなく向かって右側のキーボードの周辺)と、ビリケンとチューリップハットの両惑星とオレの視線が直列になるまさに皆既日食が延々と続き、ワシに見えるのは左半分に居並ぶバックバンドのみなのだ。かつてBeats So Lonelyのスマッシュヒットを飛ばし、私も何を間違えたかCDを買ったこともあるチャーリー・セクストン(g)の変わらぬスリムなお姿をじっと眺めながらライブは進んでいった。
このライブ、個人的な感想をいえばいろいろある。前回2001年の東京国際フォーラムで観たコンサートに比べると今回のバンドは演奏面で繊細さに欠けるところがあり(とくにドラムとベースのリズムセクション)、「別のバンドで聴けたらなあ、たとえばあのバンドとか…」と考えてしまう瞬間があったほどだ。音響的にも満足できるものではなかった(Bブロックの音のバランスは良かったらしいが…)。そうしたマイナス要因を数え上げるとキリはないが、数々の伝説の楽曲をまったく新しいアレンジで体験できる歓びにはかえられない。今回のツアーでは毎日演奏する曲目が違うようだが、例えばこの日は、Mr. Tambourine Manをやってくれた。昔、カバーしたこともあり(バーズのバージョンだけど)個人的に思い出のあるこの曲、原曲のメロディーラインの輪郭はほぼ消えているが、そのせいか歌詞が新しい魅力をもってビンビンと伝わってくる。そして奇跡が起きた。この曲が始まる頃、長らく視界を塞いでいたビリケン禿頭とチューリップハットが同時に左に移動し、目の前が一気に開けたのだ! ようやくバンドの全貌を目にした私は、ロックレジェンドのライブ後半戦を楽しんだのである。
終演は19時。家に戻り、マーティン・スコセッシ監督によるドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』のDVDを初めて観た。そして、ローリング・サンダー・レヴューのライブアルバムを久しぶりに聴いた。Bob Dylanは音楽ファンとしての私の個人史のなかでけっして重要アーティストではなかった。しかし今、これから永く聴いていくことになるのではないかという予感がしている。私にもやっと彼の歌詞と曲を味わえる時が訪れた、そういうことなのだろうか。
SET LIST 2010年3月21日17時〜 Zepp東京
1.Watching The River Flow 2.Don't Think Twice, It's All Right 3.I'll Be Your Baby Tonight 4.Sugar Baby 5.Tweedle Dee & Tweedle Dum 6.Shelter From The Storm 7.Summer Days 8.Tryin' To Get To Heaven 9.Cold Irons Bound 10.Mr. Tambourine Man 11.Highway 61 Rivisited 12.Not Dark Yet 13.Thunder On The Mountain 14.Ballad Of A Thin Man (encore) 15.Like A Rolling Stone 16.Jolene 17.All Along The Watchtower (終演19時)
※一部不明な曲はBill Pagel氏のboblinks.comの記事を参考にしました。この場を借りて御礼申し上げます。