中古レコードに歴史あり 〜「X氏コレクション」に思う〜

土曜日、ヨメさんと一緒に神田神保町へ。彼女は本、私は中古レコード探しへ。何軒かまわったうちの一つ、富士レコード社という店の棚の片隅に「X氏のコレクションコーナー」というプレートを発見。中古レコード屋さんの棚は、たいてい音楽ジャンルやアーティスト、演奏楽器別、あるいは新着レコードの棚に分けられているものだが(そして、意図的に乱雑な仕分けにしてコレクター心を煽る店などもあったりする)、こうしたコーナーはなかなか珍しい。どれどれ、と探ってみると、その中身は、「A&Mポピュラー音楽全集」や「RCAボーカルコレクション」などのいわゆるレコード会社が定期的に出していた全集ものと、映画のサウンドトラックもの(ボーギーとベスとか、そういう時代の)、そしてミュージカルものが中心で、その合間にCarpentersやDon Grusinなどのフュージョンもの、そしてStingやロックも何枚かまじっている。このラインアップを見るかぎりはスゴイ音楽マニアという感じではないけれどメロディの良い歌ものが好きな人だったのかな、とかかつての所有者の人のことを想像することができる。いくつくらいの人だろう? そしてどんなお宅のどんなステレオセットで聴いていたのだろう? あるいは、まだご存命なのだろうか?とか、LPレコードを一枚一枚指先でパタパタと確認しながら、そんなことをあれこれ考えてみる。
中古レコードを買う歓びの一つに、こうしたレコードの歴史というか商品履歴に想像をめぐらす楽しみがあると思う。中古盤は未開封ものかミント(ほぼ未使用状態のもの)にこだわったり、ジャケットの汚れを嫌うコレクターも多いけれど、ボクはむしろ使用感があったり(もちろん盤自体があまりに傷んでいるのは困るけども)、ジャケットやインナースリーブに書き込みなどがあったりして、以前のオーナーのキャラクターの断片が感じられる方が好きだ。例えばボクが持っているBud Dashiellというシンガーのアナログ盤。右肩にWayne Reganという署名がある。レーガンさんというお方が持っていたらしい。

そして、こちらは M.シュナイダーさん。「66」とあるのは1966年に買ったということなのだろうか? ちなみにこれはSammy Davis Jr.の“Sammy's Back on Broadway”(1966リリース)。写ってませんが右肩には「2.85」の赤文字が。2ドル85セントで買ったということかな?

さらには、このHenry Manciniのアルバムなんて、赤丸や黒丸シールが貼ってあって、しかも赤丸をつけたA面1曲目に一度×印をつけたあとに赤丸を貼り直して「OK」と書いてる! 左上のメモはなんと書いてあるかわからないけど……しかし、何がOKだったのだろう。校正用語でいう「モトイキ」のOKなのだろうか(笑)。

ここまで来ると、いったいこれはランキング好きな変態的音楽ファンのメモなのか、はたまたDJとか音楽評論家といった専門家によるメモなのか、元の所有者のことがヒジョーに、ヒジョーに気になってくるわけであります。
このように、中古レコードや古本の書き込み、私は嫌いではありません。そして、富士レコード社の「X氏のコレクションコーナー」には触手は動かなかったけれど、個人の「顔」が見える企画として、大変に心動かされました。中古レコードに歴史あり、コレクションにその人の歴史ありですよ。新刊書店などでもよく作家の本棚という企画でやっているし、他の中古店でもこうした個人別の棚をどんどんつくってほしいなと思いました。
そして、X氏のコレクションにあったCARPENTERSのことが気になった私は、そのUSオリジナル盤を探しに他の店へ行き、ついでに結局なんやかんやと合計で5枚ほど購入。またしてもいらぬ散財をしてしまったのである(涙:写真上から、Dan Hicks and His Hot Licksの傑作ライブ“Where's the Money?”、偉大なる初期CARPENTERSの“CLOSE TO YOU”、Rita Coolidgeの“Anytime, Anywhere”、坂本教授の“未来派野郎”(懐かしい!)、そして南佳孝の隠れた名盤“忘れられた夏”でございます)