2015年は豊作でした!個人的年間ベストアルバム

年一度の更新の季節がやってまいりました(苦笑)。
今年2015年は本当に素晴らしい新譜が多く、これ以外にもロバート・グラスパーカマシ・ワシントンやケンドリック・ラマーをはじめ、話題作も続々出た年でした。しかしながら、ここではあくまでも個人的に良く聴いたアルバム、そして今後も大切に聴き続けるであろう作品を中心に厳選しました(しかし10枚に絞ることはどうしてもかないませず…)。ダニ・ブラッキやペレス・パティトゥッチ・ブレイド、ルシラ・マンゾーリ、林正樹さんなどの新譜もとても良く聴きましたし、年末にはスピネッタの未発表録音なども出て、ベスト20くらいなら悩まずにすんだのに(笑)。つまり、個人的に、挙げきれないほどの豊作の一年だったということで、うれしい悲鳴をあげさせてください。ひーーーーーー!

■My Favorite Album of 2015

今年は6月にシャソールの音楽(と映像を使ったパフォーマンス)を知ってから、その衝撃がいまだに続いています。未見の方は、40分以上と長いですがぜひ彼のライブ・パフォーマンス映像を体験してみてください。東京で10月に行われたモントルー・ジャズ・フェスティバルでライブを見ましたが、いまだに自分のなかで消化しきれないイメージと残像が頭を巡っています。まさにAmazingという冠名にふさわしい空前の天才だと思います。ハイエイタス・カイヨーテは9月に横浜で開催されたブルーノート・ジャズ・フェスティバルで見て変拍子好きの本能が騒ぎました。クアンティックは一番回数としては聴いたかな。あのゆるさとフェイクな感じが素敵すぎます。エリック・カズは40年以上の時を経ての新譜。シンプルな弾き語りに楽曲の素晴らしさが浮き彫りにされ、ストレートに歌詞が中年男の心に染みこみました。

1. CHASSOL / BIG SUN
2. HIATUS KAIYOTE / CHOOSE YOUR WEAPON
3. GUINGA / PORTO DA MADAMA
4. QUANTIC presents the Western Transient /
A NEW CONSTELLATION
5. ERIC KAZ / ERIC KAZ
6. HERNÁN JACINTO / CAMINO
7. FABIO CADORE + HERNÁN JACINTO / ACTO 1
8. GUILHERME RIBEIRO / TEMPO
9. VINICIUS CANTUÁRIA /
VINICIUS CANTA ANTONIO CARLOS JOBIM
10. ZE MANOEL / CANCÃO E SILÊNCIO
11. RACHA FORA / RACHA S’MILES
12. CÉSAR LACERDA / PARALELOS E INFINITOS


※LPにサインをもらいました。名前YOGIじゃないけど…シャソールが面白がって…ww。しかし、なんでこのジャケットなんでしょうね。ちがうデザインならもっと売れたのではないかと…



■私的2015旧譜アルバムベスト10

旧譜では、Jazz The New Chapter3のイベントで知ったミゲル・ゼノンのアルバムにハマりました。そのアンサンブルのスマートさたるや、ギジェルモ・クレインやモアシル・サントス級の衝撃でした。あと、ジャヴァンの中でこれまで聴きそびれていたセカンドアルバムですが、その素晴らしい楽曲に驚き、感動しながら何度も繰り返し聴いています。10位はスピネッタの弟が所属するアルゼンチン・ロックのバンドですが、なかに何曲かスピネッタ調の曲があり、これがまた気持ちいいです。ハーモニーとギターのトーンが最高。

1. MIGUEL ZENÓN /
IDENTITIES ARE CHANGEABLE
2. MIGUEL ZENÓN /
ARMA ADENTO: THE PUERTO RICAN SONGBOOK
(20150110追記。名前に誤記があり修正しました)
3. CHASSOL / INDIAMORE
4. DJAVAN / DJAVAN
5. JAMES BROWN /
LOVE POWER PEACE LIVE AT THE OLYMPIA, PARIS, 1971
6. JUBILANT SYKES / WAIT FOR ME
7. VARIOUS ARTIST / A OUTRA CIDADE
8. FREDERICO HELIODORO / VERANO
(20150107追記。名前に誤記があり修正しました)
9. VARDAN OVSEPIAN CHAMBER ENSEMBLE /
DREAMING PARIS
10. AMEL / AMEL 2853

皆さん、訪問いただきありがとうございます。来年も皆さんにとってよい一年となりますように。そして、素晴らしい音楽との出会いがありますようお祈りいたします。

2014年の終わりに今年のライブ年間ベスト10

晦日。2014年も暮れようとしています。自分にとって2014年は「ライブ年」。応募したプレゼント・キャンペーンに運良く当たったり、お誘いいただいたり、チケットを譲っていただいたり、そうした幸運も重なり国内外の多くの素晴らしいアーティストのライブを見ることができました。
そんな中から、備忘録がわりに今年のライブベスト10を選んでみました。37年ぶりに見たスージー・クアトロ(生まれて初めて行ったロックコンサートが彼女のライブでした)と、聴いてから33年目にして初めて行った濱田金吾の両ライブは、私の中では個人的に感動しすぎて別格。選外といたしました(笑)。では。

別格につき選外1 Suzi Quatro(5/30 Blaze)
別格につき選外2 濱田金吾(12/20 BACK IN TOWN)

(1)Wayne Shorter Quartet (4/14 Bunkamuraオーチャードホール)
(2)Lost Memory Theatre(8/24 神奈川芸術劇場 三宅純他)
(3)Christian McBride Big Band & Makoto Ozone featuring No Name Horses(9/7 東京国際フォーラム 東京JAZZ )
(4)Marc Ribot's The Young Philadelphians(7/28 渋谷・クラブクアトロ Shibuya Club Quattro
(5)JAQUES MORELENBAUM, PAULA MORELENBAUM & GORO ITO(8/3 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo
(6) 矢野顕子 Tokyo Music Life 2014(矢野顕子、細野春臣、鈴木茂林立夫大貫妙子岸田繁清水ミチコ 6/5渋谷・Bunkamuraオーチャードホール
(7) Herbie Hancock(9/7 東京国際フォーラム 東京JAZZ )
(8) Racha Fora(11/14 Rakuya, 11/26 KAMOME)
(9) Bianca Gismonti(6/29 コットンクラブ Cotton Club)
(10) Fried Pride(7/20 モーションブルー横浜)

このほかにも、デリック・ホッジ、バート・バカラックJ-WAVE saude saudade carnivalにおけるSaigenjiジョアン・リラ、ジョイス山下洋輔スペシャル・ビッグ・バンド、NANIWA EXPRESSの再結成ライブなどなど、心に残るライブがたくさんありました。内容まで振り返って紹介していると年を越しそうなので(笑)、取り急ぎこのへんで。来年もいいライブに行きたいです。皆様によい一年が訪れますように。

そして2014年も暮れゆく 〜音楽部門年間ベスト10+α〜

今年も恒例、個人的2014年ベストのご紹介を。(このブログはこの発表のためにある感じになってまいりました…)

■新譜Music部門 2014

1 Lost Memory Theatre act2 / Jun Miyake
ロスト・メモリー・シアター act-2
2013年のLost Memory Theatre act1の続編ですが、2年連続で個人的ベスト1。聴くたびに新たな映像世界が頭の中に広がり、自分の深層心理がゆっくりと解放されるような摩訶不思議なアルバムです。三宅純さんのトークセッションでは、この2枚のアルバムの制作秘話なども伺いました。8月には同名の音楽劇も鑑賞し、生バンドによる素晴らしい演奏を堪能しました。act3もあるのでしょうか?


2 Circuit Rider / Ron Miles 
Circuit Rider
これまた、昨年の2位に挙げたロン・マイルズ(tp)、ビル・フリゼール(g)、ブライアン・ブレイド(ds)のトリオによる新録音。今回はロン・マイルズ単独のクレジットになっていますが、音のスペースを生かした達人たちの演奏はほんと気持ち良すぎて卒倒しそうです。個人的に大好きな音のトーン、というかテクスチャー。個人的なツボに入りっぱなしです。この三人の組み合わせでぜひ来日してもらいたいのですがどうでしょう。


3 Our Kind of Bossa / Bossacucanova 
Our Kind of Bossa
ボサノヴァ・レジェンドであるホベルト・メネスカルの子息、マルシオ・メネスカルをはじめ、DJのマルセリーニョ・ダルア、サウンドエンジニアのアレックス・モレイラによるグループ「ボサクカノヴァ」。ゲストボーカルにクリス・デラーノやマリア・ヒタなども加え、ご機嫌な電化ボサノヴァを聴かせます。その音には良い意味での“エエとこのボンボン”っぽい明るさがあり、今年はじつによく聴きました。ちょっと楽しくなりたい時にかける感じ。こちらもぜひ来日してほしい!


以上がベスト3。その他順不同ですが便宜上ベスト4〜10として、こんなアルバムをセレクトしました。


4 Black Messiah / D'Angelo & The Vanguard 
BLACK MESSIAH
年末に急に飛び込んできたディアンジェロ久々の新譜。おかげでランキングを急遽修正(笑)。全体的な印象は、スライの『スモール・トーク』をアドレナリン増量した感じで、ファミリー・ストーンのラスティ・アレン(b)とビル・ローダン(ds)のルーズなグルーヴを思い出しました。やはり、プリンスとかスライとかディアンジェロといったファンク色の強い音には体質的に抗えません。


5 Roendopinho /
Roendopinho
名ギタリストであり、現代ブラジルのコンテンポラリー音楽における大作曲家と言ってもいいギンガ。珠玉の旋律と和音がたまりません。頭に「?」が湧くのに気持ちいい。これはもう変態の世界ではなかろうか(笑)。


6 Rendez-Vous In Tokyo / ITO Goro + Jaques Morelenbaum
ランデヴー・イン・トーキョー
今夏に、伊藤ゴロー(g)とジャキス・モレレンバウム(celo)、そして奥方のパウラ・モレレンバウム(vo)にサポートメンバーを加えたライブをブルーノート東京で見ることができました。その来日時に録音されたこのアルバムを聴くと、ライブ当日の思い出が蘇ります。ミックスがとても良くて、ゴローさんとジャキスの弦の音がじつに素晴らしい響きです。


7 RACHA FORA / RACHA FORA
Racha Fora
本宿宏明 (fl・EWI) 池田里花 (vln) Mauricio Andrade (g) Rafael Russi (b) +ゲスト(pandeiro)、ボストンを拠点に活動する日本人とブラジル人の混成グループ「ハシャ・フォーラ」。ジョージ・ラッセルに師事した本宿氏をはじめ、バークリー出身のメンバーの演奏は、ジャズを基本にしながらブラジリアン・ミュージック、プログレ、そして邦楽などの要素も融合しスリリングなインプロビゼーションを展開します。11月の来日ツアーも見に行きましたが、マイルスやボサノヴァの名曲も彼らの手にかかると全く新しい顔つきになります。


8 Perfect Animal / Becca Stevens Band
パーフェクト・アニマル
ジャズとフォークミュージックがいい感じに融合している今注目のバンドですね。来日公演が楽しみ。


9 Alexandre Andrés / Olhe Bem As Montanhas
【輸入盤】Olhe Bem As Montanhas [ Alexandre Andres ]
ブラジル・ミナス期待の若手シンガーソングライター、アレシャンドレアンドレス。昨年のデビューアルバムに続き、このアルバムも心に残るとてもいい旋律揃いでした。


10 Silêncio - Um Tributo A João Gilberto / Renato Braz, Nailor Proveta, Edson Alves
シレンシオ~ジョアン・ジルベルト・トリビュートSilêncio Tributo a Jo o Gilberto
ブラジルのシンガーソングライター、ヘナート・ブラスのジョアン・ジルベルト・トリビュート。以前彼のライブを聴く機会があり、少しお話もしたのですが、その時に感じた温かい人柄そのままの包容力たっぷりの素晴らしい歌声とアレンジ。ジョアンの曲がまた新しい世界を手に入れたという感じでしょうか。聴けば聴くほど味が出るQuietミュージックです。



その他、惜しくも選外ですが、こんなアルバムも良かったです。

● Southbound / The Doobie Brothers
ドゥービー・ブラザーズは10代の頃ロックファンだった私に、その後のスティーリー・ダン〜クロスオーバー〜ジャズへと続く音楽の扉を開けるきっかけをくれたバンドでした。このアルバムは、さまざまなゲストを迎えての新録セルフカバー集。原曲から微妙なアレンジを加えていて、それがピッタリ今の気分にはまっています。旋律やハーモニーなど「これが本来あるべき姿かも」と思えるほどのブラッシュアップがなされており、昔のファンとして嬉しくなりました。

● The Signal / Elizabeth Shepherd
年末になって聴き始めたエリザベス・シェファードのアルバムも、もっと早くから聴いていればベスト10に入ったかも。とくに、リオネル・ルエケのギターとの共演曲は程よいアヴァンギャルド感が好きです。

● Cats' Meow / Danna Gillespie
デヴィッド・ボウイ様の昔の彼女ですね。渋いシティ・ブルースを聴かせます。かっこいい声。

● in Tokyo / Antonio Loureiro
このライブ、アントニオ・ロウレイロも日本人ミュージシャン達も本当に素晴らしい演奏だったのでCD化されて嬉しいです。

● Cello Samba Trio: Saudade Do Futuro Futuro Da Saudade / Jaques Morelenbaum
ジャキス・モレレンバウムのチェロが奏でるWhiteサンバ。優しいその音にはメロメロの骨抜きにされる危険性が…。

NHK大河ドラマ「八重の桜」オリジナル・サウンドトラック コンプリート盤 / 坂本龍一中島ノブユキ
去年の大河ドラマのサントラですが、壮大な組曲を聴いているような2枚組です。品質の高さに感動しました。

●Early Riser / Taylor Mcferrin
新世代ジャズ旗手の一人であるシンガー&コンポーザーのデビュー盤。クレジットにセーザル・カマルゴ・マリアーノという意外な名前を見つけて、唸りました。




■旧譜・再発Music部門 2014 ※( )内は発表年

旧譜や再発ものでは、こんなアルバムを良く聴きました。といいますか、新譜よりも旧譜の方により頻繁に聴き込んだ作品が多かったように思います。

アルゼンチン・ロックの天才、故スピネッタ関連作は相変わらずコツコツ収集中。2014年後半には、同じくアルゼンチンのジャズピアニスト&コンポーザーであるギジェルモ・クレインと、ブラジルの大ベテラン、エドゥ・ロボのマイブームが勃発。春先には、エリス・ヘジーナにも匹敵するクラウデッチ・ソアレスの歌唱力にも魅了されました。

要するに私のブラジル・アルゼンチンの音楽旅はまだまだ続くのであります(すでに南米に移住したという噂あり)。

1 Para Los Arboles / Luis Alberto Spinetta (2003)
2 Carrera / Gillermo Klein (2012)
3 Domador de Huellas: Música del "Cuchi" Leguizamón / Gillermo Klein (2010)
4 Una Nave / Gillermo Klein (2005)
5 Bajo Belgrano / Spinetta Jade (1983)
6 Corrupião / Edu Lobo (1993)
7 Sampa Midnight / Itamar Assumpção (1986)
8 Made in Brazil / Mike Del Ferro (2008)
9 Nebula / Laika (2011)
10 Black Sea / XTC (1980)

以下のアルバムも好きになりました。
●Orquestra Filarmônica Norte Nordeste / Orquestra Filarmônica Norte Nordeste (2000)
●Rasgando Seda / Guinga + Quinteto Villa-Lobos (2012)
●Earfood / The Roy Hargrove Quintet (2008)
●Seduzir / Djavan (1981)
●Feitinha Pro Sucesso Ou Quem Não É A Maior Ten Que Ser A Melhor / Claudette Soares (1969)
●The Studio Albums 1968-1979 / Joni Mitchell


2014年はライブにも多く出かけました(追って、ライブ部門もセレクトしてみます)。

今年もあとわずかになりました。来年もまた素晴らしい音楽との出会いに期待して。

真夏のJAZZ教室にふらっと寄ってみました

今日は野毛のジャズ喫茶ちぐさに行き、高校生を対象とした「真夏のJAZZ教室」というイベントの後編、柳樂光隆さんの「2000年代以降のジャズについて」を拝聴した。Kris Bowersがジャズピアノの通史を実演する映像の紹介を皮切りに、現代のジャズ演奏家が歴史も含めた正規のジャズ教育を受け、その素地の上で、ヒップホップやポストロック、音響派などさまざまなジャンル、あるいはポピュラーミュージックに接近して新しい種類のコンテンポラリーミュージックを生み出しているさまざまな事例が紹介された。

今日参加した高校生の皆さんは、Kris BowersやRobert Glasper、Jason Moran、Becca Stevens、Brad Mehldauに、J DillaRadiohead、Björkなども取り混ぜられたこのプログラムを聴いてどう思ったのか非常に興味があるけども、帰り際に一人の女子学生さんが「(前編で聴いた)古いジャズの方が私は好きかも」と話していた(いいよね、自分の感想をちゃんと表明して)。

そのときはたとえピンと来なくても、音楽をずっと好きでいたらいつか、今日の音楽がまったく別の聞こえ方をすることもあるし、こうした機会は彼女たちにとってもいい経験だと思いました。そして同時に、ジャズの裾野を広げ、リスナーを増やすための(地味だけど)とても大事な取り組みだと感じました。

また、大人の私(笑)としても、昨今のジャズミュージシャンのポピュラーミュージックへの接近、彼らの親しんできたコンピューターミュージックの生音による再構築などの動きも整理でき、また、カントリーやフォークなどのルーツミュージックをジャズの和声・リズムによって抽象化する流れの一端も理解できたので大変参考になりました。

また、ちぐさの音響は、アナログ(アコースティック)だけでなくCD音源(エレクトリック)にも対応しているようでヒップホップ系の曲も非常にいい音で聴かせてもらいました。近所なのでまた伺いたいと思います。

『愛の渦』、これは世界に誇る人間ドラマの傑作ではあるまいか!

三浦大輔監督作品『愛の渦』を初日に見た。本作の舞台は、とある高級マンションの一室、その乱交パーティーの会場に集まった見ず知らずの男女が繰り広げる駆け引きと“人間模様”が見どころだ。

料金は男2万円、女千円、カップル5千円、時間は午前0時から5時まで。面倒なプロセスなしで誰とでもいいから性交したい、その一心でマンションの呼び鈴を押したはずの男女(計10名)なのに、いざ蓋を開けてみると、実際のセックスに至るまでの駆け引きがあり、好悪や羞恥、虚栄、侮蔑などさまざまな感情が顔を覗かせる。

ここにこの映画の興味がある。すべての殻を脱ぎ去り、ただの裸の動物になったつもりでも、なおそこに残るものは何か。それが人間と動物とを分かつものなのか。この疑問はやがて「人間とは何か」「性とは、社会とは」といった根源的な問いに姿を変え、映画を観る者に突きつけられる。

そう、これは倫理ではなく、むしろ人間観を問われる映画なのだ。胸が苦しくなったり、思いもしない台詞に笑ってしまったり、優れた人間ドラマでもある。おそらく(倫理観と宗教的戒律の厳しい国を除いて)この映画の提示する問いは普遍的であり、人類共通だろう。この究極の設定を発見し、エンタテインメント作品に仕上げた監督、関係者、そして俳優の方々を称えたい。

ひと言ひと言の台詞と俳優陣の演技はとくに素晴らしく、映画を見終わってから、俳優とは何か、演じるとは何か、脚本とは何かという新たな問いも心に湧き始めたほど。身体も心も裸になり演じる役者たちはもちろんのこと、店長役の田中哲司、店員役を演じた窪塚洋介も好演。とくに窪塚を見ていて、この映画こそ彼の真のカムバック作品であり、これからのさらなる活躍が期待されると感じた。

R-18で全裸のセックスシーン満載の映画だが、不思議なほどにエロさはない。18歳以上の万人におすすめしたい、人間ドラマの「傑作」である。




映画のあらすじ等は
『愛の渦』公式サイト
http://ai-no-uzu.com/

ロック・ソウルを支える名脇役たちを描く珠玉の音楽ドキュメンタリー!

映画『バックコーラスの歌姫たち(原題20 FEET FROM STARDOM)』

今日、横浜ニューテアトルでいい映画を見たので備忘録がわりに報告します。
※注意して書いておりますが一部ネタバレの内容を含んでいますので気になさる方は映画をご鑑賞後にお読みください。


コンサートやレコーディングの感動を格段に高めてくれるバックグラウンド・ボーカリストたち。この映画は、そうした歌手たちを題材に、ブルース・スプリングスティーンミック・ジャガー、スティング、スティーヴィー・ワンダーベット・ミドラーらの証言を交えつつ、とくにアフリカ系の女性ボーカリスト6名のキャリアに焦点を当てた音楽ドキュメンタリーだ。

登場するメンバーを紹介すると、
(1)アイク・アンド・ティナ・ターナーのジ・アイケッツのメンバーとして活躍後、デラニー&ボニー・フレンズ、ジョー・コッカーのマッド・ドッグ&イングリッシュ・メン、ジョージ・ハリスンバングラデシュ・コンサートにも参加したクラウディア・リニア(Claudia Lennier:ストーンズの『ブラウン・シュガー』のモデルと言われる女性)
(2)同じくストーンズの『ギミー・シェルター』での名唱や、レイナード・スキナード『スウィート・ホーム・アラバマ』、キャロル・キング『つづれおり』等でのバックコーラスで知られるメリー・クレイトン(Merry Clayton)
(3)1950年代からバックボーカルとして数多くのセッションに参加し、ロックの殿堂入りも果たしたダーレン・ラヴ(Darlene Love)
(4)ルーサー・ヴァンドロスチャカ・カーン、スティングなどのバックボーカル、89年からはストーンズのツアーに参加、自らもソロ歌手としてもグラミー賞を受賞したリサ・フィッシャー(Lisa Fischer)
(5)アリーサ・フランクリンに匹敵する歌唱力と評されながらもバックボーカルとしての立ち位置を守るタタ・ヴェガ(Tata Vega)
(6)マイケル・ジャクソンThis Is Itでデュエット・パートナーに抜擢され、注目を集めたジュディス・ヒル(Judith Hill)
といった面々。

彼女たちそれぞれの軌跡を順に追いつつ、バックボーカリストという職業の特質や、ロック・ソウルの歴史的変遷、エンタテインメント業界の内輪事情などがさまざまな視点から描き出されていく。

ダーレン・ラヴのエピソードでは、自分がソロで歌ったはずのレコーディングをフィル・スペクターに歌声だけ使われ、他のグループの影武者となった話があった(まさにこれはドラマ「あまちゃん」の天野春子的世界だなと思いつつ、スクリーンを見ながら「フィル・スペクター、またお前か!」と心で叫んでしまった:笑)。

また、ブラックミュージックに影響を受けた白人アーティストたちが60年代後半から70年代にかけて彼女たちを盛んに起用するようになるが、ロック・レジェンドたちと共演するクラウディア・リニアやメリー・クレイトンの若き日の映像などもロック・ソウルファンには、たまらないものだろう(自分も家に帰ってバングラデシュ・コンサートのDVDを見直し、感動を新たにした)。

ハリウッドのエレクトラスタジオを久しぶりに訪れたメリー・クレイトンが『ギミー・シェルター』録音時のことを語るシーンはとくに印象的だ。夜中に寝ているところを呼び出され、髪にカーラーを巻いたままパジャマにコートを着て臨んだレコーディング(彼女は妊娠中だった)で、あの驚異のボーカルを爆発させたそうだ。なんという能力の高さ! ストーンズのメンバーも興奮しただろうね、きっと。

彼女たちのその後の人生もさまざまだ。基本的には80年代後半からバックボーカルの仕事は漸減していく(複数の人の声によるハーモニーというのはライブやレコーディングの醍醐味だと思うのだが)。ある人は、仕事を失い、家政婦として働く時期を経てカムバックする。また、ある人は歌手を引退しスペイン語教師に転身する。ある人は、スターになる寸前であえてバックボーカリストの道に戻る……。
タタ・ヴェガの言葉が胸に響く。「もしもトップで歌い続けていたら、今私はここにいない。ドラッグ中毒でこの世にはいなかったかも」

音楽業界の内幕ものとしての興味もさることながら、こういうところに職業や人生の選択という普遍的なテーマも見え隠れする映画である。原題『20 FEET FROM STARDOM』にある、トップスターと彼女たちとを分ける数歩の違いが何か……このことへの興味よりもむしろ、画面から濃密に発散される彼女たちの歌うことへの愛やプロのバックグラウンド・ボーカリストとしての誇りに、見る者は強く惹き付けられる。音楽を支える名脇役を描いたドキュメンタリー『永遠のモータウン』や、数々の助演級の女優たちの苦悩を取材した『デブラ・ウィンガーを探して』などにグッときた人には絶対におすすめの映画だ。

ロック・ソウルの歴史を改めて学び直した。そんな気持ちになりました。これからレコードやCDを聴くときに、バックボーカルの声やクレジットにより注意することになりそうです。

(追記)
この映画に登場する歌手たちのほとんどが教会の聖歌隊出身で、声の融合(すなわち魂のハーモニー)を重視して育ってきた人たちであるという事実には、なるほどと思わせられました。

監督はモーガン・ネヴィル(キャロル・キングジェームス・テイラーのTroubadoursとかジョニー・キャッシュのドキュメンタリーなども彼の仕事)、製作はギル・フリーセン(A&Mの元社員だったそうです。この映画の完成と前後して逝去)

生で聴いた『Live Today』は、けっこうガツンと来たのであった(デリック・ホッジ at ブルーノート東京)

昨夜はデリック・ホッジ(Derrick Hodge)のブルーノート東京2ndステージを見たので、感想を少し。

デリック・ホッジはロバート・グラスパー・エクスペリメント(Robert Glasper Experiment)のメンバーであり、マックスウェルやジル・スコット等の作品を支えてきたベーシスト・作曲家。昨年8月に初のリーダーアルバム『Live Today』を発表しており、今回は自身のバンドを率いての来日。

メンバーはデリック(b)、キーヨン・ハロルド(Keyon Harrold / tp)、マイケル・アーバーグ(Michael Aaberg / kbds)、フェデリコ・ゴンサレス・ペーニャ(Federico Gonzalez Peña / kbds)、そしてマーク・コレンバーグ(Mark Colenburg / ds)という顔ぶれ。来日が決まってからメンバーが大幅に入れ替わったようだが、キーヨンはマックスウェルやJay-Zビヨンセジョス・ストーンからグレゴリー・ポーター、デヴィッド・サンボーンまで数多くの作品に参加する腕利きの奏者。また、フェデリコの演奏クレジットを調べると、ミシェル・ンデゲオチェロマーカス・ミラー、ケニー・ギャレット、チャカ・カーンなどのビッグネームが並ぶ。こうしたメンバーの幅広い共演履歴からもわかるように、デリック・ホッジの『Live Today』は、ジャズ、ヒップホップ、R&B、ゴスペル、フォークなどのジャンルを越え、現代ブラックミュージックのひとつの進化形を示す作品として注目されている。
Live Today
ライブを聴いてまず感じたのは、デリック・ホッジのエレキベース(四弦)の音の良さ。芯があって、しかも豊かに響くイイ音なのだ。そこに、マーク・コレンバーグのドラムが絡む。彼の生演奏を初めて見たが、予想をいい意味で裏切るものだった。CDで聴くと手数の多いプログレ色の強いドラマーなのかと勝手に思っていたが、いやいや生音のコレンバーグは、ジャズドラマーでした。サウンド的には、残響の少ない音というか、あえてドラムを響かせないパーカッシブな奏法が特徴だろうか。肘とスティックの全体で叩きつけるようなアクション。力で「鳴り」を抑え込むかのようなバシッ!バッシッ!という音で、ジャズやアフロなどの色の強い身体性の高いビートを叩き出す。もちろん、曲により、また曲のパートによって叩き方は繊細に変えているのだが、この乾いた鳴りの少ない強烈な打音が潤い成分多めのデリック・ホッジのベース・サウンドとよい対比をみせていて、なるほど、この両者の生み出す「乾」と「潤」のコントラストは面白いなと感じた。

さて、デリック・ホッジの方はというとMCなどを聴いてもすごく真摯でマジメな感じだし、きっと常識のあるバランスのとれた人格なのではないかと……。それが彼の生み出す音楽にも表れているのだろうという感想だ。『Live Today』にしても、いい意味で総合的に調和のとれた音づくりがなされているし。これは同じジャズベーシストでありコンポーザーのエスペランサ・スポルディングにも共通することだが、ジャンルを超えたさまざまな音の素材を集め、小さなディテールを丁寧に作り込んでいきつつ、トータルには「まろやかな美味しい音楽に」仕上げていく手腕とセンスがある。これは私の印象だが、ベーシストがプロデュースする作品は、他のリード楽器奏者が作るものと違い、そうした音楽全体の肌触りの良さを大切にしたものが多いように思う。たぶん、曲の間休めないリズム楽器でありハーモニーを下支えする楽器でもあるベースを弾く人って、全体への目配せの能力が高いのじゃないかな。そして、エスペランサやデリック・ホッジのように、刺激にあふれた細部をバランスよく「今の音楽」として(ある意味中庸な感じに)まとめ上げていく、そんなクロスオーバー志向の人たちが自分は好きなことを再認識しました。

話は戻るが、生音で聴くデリック・ホッジとマーク・コレンバーグはやはりジャズミュージシャンだった。アンコールの「Gritty Folk」はCDで聴くよりずっとヘヴィでアヴァンギャルドな音で、エレクトリック期のマイルスバンドを少し連想させたし、なんかマイルスが生きていたらこの二人をバックに呼んだりして…とか、そんなことも考えたり。

ただ、ドラムがマーク・コレンバーグでなかったら、昨晩のライブはどうなっただろう。あのコレンバーグの時折みせる“荒ぶる魂の解放”的な鬼気迫るドラミングの要素がなかったら? 例えばもっとキレイな音の端正なプレイスタイルのジャズドラマーだったら? ちょっと音がまろやか過ぎて退屈したかもなあ(事実、ベースソロの曲では美しすぎて睡魔が襲ってきたし:笑)。そう思うと、この人選は正しかったのね。あ、万能選手のトランペッター、キーヨン・ハロルドも他の二人も素晴らしかったです。


Set List (January 10 / 2nd)
1 The Real
2 Boro March
3 Anthem In 7
4 Still The One
5 Dances With Ancestors
6 Holding Onto You
7 Message Of Hope
8 Gritty Folk