真夏のJAZZ教室にふらっと寄ってみました

今日は野毛のジャズ喫茶ちぐさに行き、高校生を対象とした「真夏のJAZZ教室」というイベントの後編、柳樂光隆さんの「2000年代以降のジャズについて」を拝聴した。Kris Bowersがジャズピアノの通史を実演する映像の紹介を皮切りに、現代のジャズ演奏家が歴史も含めた正規のジャズ教育を受け、その素地の上で、ヒップホップやポストロック、音響派などさまざまなジャンル、あるいはポピュラーミュージックに接近して新しい種類のコンテンポラリーミュージックを生み出しているさまざまな事例が紹介された。

今日参加した高校生の皆さんは、Kris BowersやRobert Glasper、Jason Moran、Becca Stevens、Brad Mehldauに、J DillaRadiohead、Björkなども取り混ぜられたこのプログラムを聴いてどう思ったのか非常に興味があるけども、帰り際に一人の女子学生さんが「(前編で聴いた)古いジャズの方が私は好きかも」と話していた(いいよね、自分の感想をちゃんと表明して)。

そのときはたとえピンと来なくても、音楽をずっと好きでいたらいつか、今日の音楽がまったく別の聞こえ方をすることもあるし、こうした機会は彼女たちにとってもいい経験だと思いました。そして同時に、ジャズの裾野を広げ、リスナーを増やすための(地味だけど)とても大事な取り組みだと感じました。

また、大人の私(笑)としても、昨今のジャズミュージシャンのポピュラーミュージックへの接近、彼らの親しんできたコンピューターミュージックの生音による再構築などの動きも整理でき、また、カントリーやフォークなどのルーツミュージックをジャズの和声・リズムによって抽象化する流れの一端も理解できたので大変参考になりました。

また、ちぐさの音響は、アナログ(アコースティック)だけでなくCD音源(エレクトリック)にも対応しているようでヒップホップ系の曲も非常にいい音で聴かせてもらいました。近所なのでまた伺いたいと思います。

『愛の渦』、これは世界に誇る人間ドラマの傑作ではあるまいか!

三浦大輔監督作品『愛の渦』を初日に見た。本作の舞台は、とある高級マンションの一室、その乱交パーティーの会場に集まった見ず知らずの男女が繰り広げる駆け引きと“人間模様”が見どころだ。

料金は男2万円、女千円、カップル5千円、時間は午前0時から5時まで。面倒なプロセスなしで誰とでもいいから性交したい、その一心でマンションの呼び鈴を押したはずの男女(計10名)なのに、いざ蓋を開けてみると、実際のセックスに至るまでの駆け引きがあり、好悪や羞恥、虚栄、侮蔑などさまざまな感情が顔を覗かせる。

ここにこの映画の興味がある。すべての殻を脱ぎ去り、ただの裸の動物になったつもりでも、なおそこに残るものは何か。それが人間と動物とを分かつものなのか。この疑問はやがて「人間とは何か」「性とは、社会とは」といった根源的な問いに姿を変え、映画を観る者に突きつけられる。

そう、これは倫理ではなく、むしろ人間観を問われる映画なのだ。胸が苦しくなったり、思いもしない台詞に笑ってしまったり、優れた人間ドラマでもある。おそらく(倫理観と宗教的戒律の厳しい国を除いて)この映画の提示する問いは普遍的であり、人類共通だろう。この究極の設定を発見し、エンタテインメント作品に仕上げた監督、関係者、そして俳優の方々を称えたい。

ひと言ひと言の台詞と俳優陣の演技はとくに素晴らしく、映画を見終わってから、俳優とは何か、演じるとは何か、脚本とは何かという新たな問いも心に湧き始めたほど。身体も心も裸になり演じる役者たちはもちろんのこと、店長役の田中哲司、店員役を演じた窪塚洋介も好演。とくに窪塚を見ていて、この映画こそ彼の真のカムバック作品であり、これからのさらなる活躍が期待されると感じた。

R-18で全裸のセックスシーン満載の映画だが、不思議なほどにエロさはない。18歳以上の万人におすすめしたい、人間ドラマの「傑作」である。




映画のあらすじ等は
『愛の渦』公式サイト
http://ai-no-uzu.com/

ロック・ソウルを支える名脇役たちを描く珠玉の音楽ドキュメンタリー!

映画『バックコーラスの歌姫たち(原題20 FEET FROM STARDOM)』

今日、横浜ニューテアトルでいい映画を見たので備忘録がわりに報告します。
※注意して書いておりますが一部ネタバレの内容を含んでいますので気になさる方は映画をご鑑賞後にお読みください。


コンサートやレコーディングの感動を格段に高めてくれるバックグラウンド・ボーカリストたち。この映画は、そうした歌手たちを題材に、ブルース・スプリングスティーンミック・ジャガー、スティング、スティーヴィー・ワンダーベット・ミドラーらの証言を交えつつ、とくにアフリカ系の女性ボーカリスト6名のキャリアに焦点を当てた音楽ドキュメンタリーだ。

登場するメンバーを紹介すると、
(1)アイク・アンド・ティナ・ターナーのジ・アイケッツのメンバーとして活躍後、デラニー&ボニー・フレンズ、ジョー・コッカーのマッド・ドッグ&イングリッシュ・メン、ジョージ・ハリスンバングラデシュ・コンサートにも参加したクラウディア・リニア(Claudia Lennier:ストーンズの『ブラウン・シュガー』のモデルと言われる女性)
(2)同じくストーンズの『ギミー・シェルター』での名唱や、レイナード・スキナード『スウィート・ホーム・アラバマ』、キャロル・キング『つづれおり』等でのバックコーラスで知られるメリー・クレイトン(Merry Clayton)
(3)1950年代からバックボーカルとして数多くのセッションに参加し、ロックの殿堂入りも果たしたダーレン・ラヴ(Darlene Love)
(4)ルーサー・ヴァンドロスチャカ・カーン、スティングなどのバックボーカル、89年からはストーンズのツアーに参加、自らもソロ歌手としてもグラミー賞を受賞したリサ・フィッシャー(Lisa Fischer)
(5)アリーサ・フランクリンに匹敵する歌唱力と評されながらもバックボーカルとしての立ち位置を守るタタ・ヴェガ(Tata Vega)
(6)マイケル・ジャクソンThis Is Itでデュエット・パートナーに抜擢され、注目を集めたジュディス・ヒル(Judith Hill)
といった面々。

彼女たちそれぞれの軌跡を順に追いつつ、バックボーカリストという職業の特質や、ロック・ソウルの歴史的変遷、エンタテインメント業界の内輪事情などがさまざまな視点から描き出されていく。

ダーレン・ラヴのエピソードでは、自分がソロで歌ったはずのレコーディングをフィル・スペクターに歌声だけ使われ、他のグループの影武者となった話があった(まさにこれはドラマ「あまちゃん」の天野春子的世界だなと思いつつ、スクリーンを見ながら「フィル・スペクター、またお前か!」と心で叫んでしまった:笑)。

また、ブラックミュージックに影響を受けた白人アーティストたちが60年代後半から70年代にかけて彼女たちを盛んに起用するようになるが、ロック・レジェンドたちと共演するクラウディア・リニアやメリー・クレイトンの若き日の映像などもロック・ソウルファンには、たまらないものだろう(自分も家に帰ってバングラデシュ・コンサートのDVDを見直し、感動を新たにした)。

ハリウッドのエレクトラスタジオを久しぶりに訪れたメリー・クレイトンが『ギミー・シェルター』録音時のことを語るシーンはとくに印象的だ。夜中に寝ているところを呼び出され、髪にカーラーを巻いたままパジャマにコートを着て臨んだレコーディング(彼女は妊娠中だった)で、あの驚異のボーカルを爆発させたそうだ。なんという能力の高さ! ストーンズのメンバーも興奮しただろうね、きっと。

彼女たちのその後の人生もさまざまだ。基本的には80年代後半からバックボーカルの仕事は漸減していく(複数の人の声によるハーモニーというのはライブやレコーディングの醍醐味だと思うのだが)。ある人は、仕事を失い、家政婦として働く時期を経てカムバックする。また、ある人は歌手を引退しスペイン語教師に転身する。ある人は、スターになる寸前であえてバックボーカリストの道に戻る……。
タタ・ヴェガの言葉が胸に響く。「もしもトップで歌い続けていたら、今私はここにいない。ドラッグ中毒でこの世にはいなかったかも」

音楽業界の内幕ものとしての興味もさることながら、こういうところに職業や人生の選択という普遍的なテーマも見え隠れする映画である。原題『20 FEET FROM STARDOM』にある、トップスターと彼女たちとを分ける数歩の違いが何か……このことへの興味よりもむしろ、画面から濃密に発散される彼女たちの歌うことへの愛やプロのバックグラウンド・ボーカリストとしての誇りに、見る者は強く惹き付けられる。音楽を支える名脇役を描いたドキュメンタリー『永遠のモータウン』や、数々の助演級の女優たちの苦悩を取材した『デブラ・ウィンガーを探して』などにグッときた人には絶対におすすめの映画だ。

ロック・ソウルの歴史を改めて学び直した。そんな気持ちになりました。これからレコードやCDを聴くときに、バックボーカルの声やクレジットにより注意することになりそうです。

(追記)
この映画に登場する歌手たちのほとんどが教会の聖歌隊出身で、声の融合(すなわち魂のハーモニー)を重視して育ってきた人たちであるという事実には、なるほどと思わせられました。

監督はモーガン・ネヴィル(キャロル・キングジェームス・テイラーのTroubadoursとかジョニー・キャッシュのドキュメンタリーなども彼の仕事)、製作はギル・フリーセン(A&Mの元社員だったそうです。この映画の完成と前後して逝去)

生で聴いた『Live Today』は、けっこうガツンと来たのであった(デリック・ホッジ at ブルーノート東京)

昨夜はデリック・ホッジ(Derrick Hodge)のブルーノート東京2ndステージを見たので、感想を少し。

デリック・ホッジはロバート・グラスパー・エクスペリメント(Robert Glasper Experiment)のメンバーであり、マックスウェルやジル・スコット等の作品を支えてきたベーシスト・作曲家。昨年8月に初のリーダーアルバム『Live Today』を発表しており、今回は自身のバンドを率いての来日。

メンバーはデリック(b)、キーヨン・ハロルド(Keyon Harrold / tp)、マイケル・アーバーグ(Michael Aaberg / kbds)、フェデリコ・ゴンサレス・ペーニャ(Federico Gonzalez Peña / kbds)、そしてマーク・コレンバーグ(Mark Colenburg / ds)という顔ぶれ。来日が決まってからメンバーが大幅に入れ替わったようだが、キーヨンはマックスウェルやJay-Zビヨンセジョス・ストーンからグレゴリー・ポーター、デヴィッド・サンボーンまで数多くの作品に参加する腕利きの奏者。また、フェデリコの演奏クレジットを調べると、ミシェル・ンデゲオチェロマーカス・ミラー、ケニー・ギャレット、チャカ・カーンなどのビッグネームが並ぶ。こうしたメンバーの幅広い共演履歴からもわかるように、デリック・ホッジの『Live Today』は、ジャズ、ヒップホップ、R&B、ゴスペル、フォークなどのジャンルを越え、現代ブラックミュージックのひとつの進化形を示す作品として注目されている。
Live Today
ライブを聴いてまず感じたのは、デリック・ホッジのエレキベース(四弦)の音の良さ。芯があって、しかも豊かに響くイイ音なのだ。そこに、マーク・コレンバーグのドラムが絡む。彼の生演奏を初めて見たが、予想をいい意味で裏切るものだった。CDで聴くと手数の多いプログレ色の強いドラマーなのかと勝手に思っていたが、いやいや生音のコレンバーグは、ジャズドラマーでした。サウンド的には、残響の少ない音というか、あえてドラムを響かせないパーカッシブな奏法が特徴だろうか。肘とスティックの全体で叩きつけるようなアクション。力で「鳴り」を抑え込むかのようなバシッ!バッシッ!という音で、ジャズやアフロなどの色の強い身体性の高いビートを叩き出す。もちろん、曲により、また曲のパートによって叩き方は繊細に変えているのだが、この乾いた鳴りの少ない強烈な打音が潤い成分多めのデリック・ホッジのベース・サウンドとよい対比をみせていて、なるほど、この両者の生み出す「乾」と「潤」のコントラストは面白いなと感じた。

さて、デリック・ホッジの方はというとMCなどを聴いてもすごく真摯でマジメな感じだし、きっと常識のあるバランスのとれた人格なのではないかと……。それが彼の生み出す音楽にも表れているのだろうという感想だ。『Live Today』にしても、いい意味で総合的に調和のとれた音づくりがなされているし。これは同じジャズベーシストでありコンポーザーのエスペランサ・スポルディングにも共通することだが、ジャンルを超えたさまざまな音の素材を集め、小さなディテールを丁寧に作り込んでいきつつ、トータルには「まろやかな美味しい音楽に」仕上げていく手腕とセンスがある。これは私の印象だが、ベーシストがプロデュースする作品は、他のリード楽器奏者が作るものと違い、そうした音楽全体の肌触りの良さを大切にしたものが多いように思う。たぶん、曲の間休めないリズム楽器でありハーモニーを下支えする楽器でもあるベースを弾く人って、全体への目配せの能力が高いのじゃないかな。そして、エスペランサやデリック・ホッジのように、刺激にあふれた細部をバランスよく「今の音楽」として(ある意味中庸な感じに)まとめ上げていく、そんなクロスオーバー志向の人たちが自分は好きなことを再認識しました。

話は戻るが、生音で聴くデリック・ホッジとマーク・コレンバーグはやはりジャズミュージシャンだった。アンコールの「Gritty Folk」はCDで聴くよりずっとヘヴィでアヴァンギャルドな音で、エレクトリック期のマイルスバンドを少し連想させたし、なんかマイルスが生きていたらこの二人をバックに呼んだりして…とか、そんなことも考えたり。

ただ、ドラムがマーク・コレンバーグでなかったら、昨晩のライブはどうなっただろう。あのコレンバーグの時折みせる“荒ぶる魂の解放”的な鬼気迫るドラミングの要素がなかったら? 例えばもっとキレイな音の端正なプレイスタイルのジャズドラマーだったら? ちょっと音がまろやか過ぎて退屈したかもなあ(事実、ベースソロの曲では美しすぎて睡魔が襲ってきたし:笑)。そう思うと、この人選は正しかったのね。あ、万能選手のトランペッター、キーヨン・ハロルドも他の二人も素晴らしかったです。


Set List (January 10 / 2nd)
1 The Real
2 Boro March
3 Anthem In 7
4 Still The One
5 Dances With Ancestors
6 Holding Onto You
7 Message Of Hope
8 Gritty Folk

2013年の暮れに今年のアルバム私的ベストなどを

皆さん、2013年が暮れようとしております。

えー…今年のブログ更新は初めてです(恥)。

もう今年もあと5時間です(笑)。

Twitterにかまけてばかりの私をお許しください。
来年はボチボチこちらに復帰します。

さて、恒例の私的ベストアルバム。2012年はEsperanza Spauldingの『レディオ・ミュージック・ソサイエティ』が圧倒した私のリストでしたが、今年はいい作品が多く、10枚選ぶのが難しかったです。とくにブラジル・ミナス系のアーティストの新譜がどれも素晴らしい出来でした。

以下、よく聴いたアルバムをご紹介します。

ちなみに、アフィリエイトはやっておりません(2013年12月現在:笑)。


●Lost Memory Theatre act-1 / Jun Miyake(三宅純)
今年の個人的ベストアルバムを1枚だけ挙げるならばこの1枚。聴くと心の中に自分だけのシアターが生まれる宝物のようなアルバムでした。国境を越え、時代も超えてさまざまなイメージが浮かんできます。傑作。

ロスト・メモリー・シアター, Act - 1
三宅純 Official site(楽曲のサンプルが聴けます)
http://www.junmiyake.com/


●QUIVER / Ron Miles, Bill Frisell, Brian Blade(2012)
2012年12月発。厳密には2013年ではありませんが、トランペット、ギター、ドラムの全ての音が気持ち良すぎてずっと聴いていたくなる中毒性のあるアルバムで、実際によく聴きました。このメンツでおわかりでしょうが、スペースのあるインタープレイが超・快感です。

Quiver



●DERIVA / Kristoff Silva
年末になって滑り込んできたアルバムです。ブラジル・ミナスのシンガーソングライターですが、歌モノを基本軸にしながら全体の構成やアレンジにはプログレやジャズ、音響派の影響も感じます。ただし、欧米にはいそうでいないタイプかと。いま個人的にヘビロテです。
Deriva 



●MISTURADA ORQUESTRA / Misturada Orquestra(2011) 
これも2011年発表ですが、日本では今年出ました。ハファエル・マルティニ(P)率いるブラジル・ミナスの新進気鋭のミュージシャンによるグループ。音はクリエイティブのひと言。音楽的な可能性を感じる大好きなアルバムです。

Misturada Orquestra



●POSTLUDiUM / Goro Ito(伊藤ゴロー)
前作『GLASHAUS』に続き、今回のアルバムも静謐で美しい! 伊藤氏のギターを中心に、それぞれの曲は個性があるのに、アルバムを順に聴いていくうちにイメージが微妙に移ろい、淡いなかにも複雑な色彩が全体から浮かび上がってくるような不思議な作品です。傑作。

POSTLUDIUM



●Wed21 / Juana Molina
正直言って、このアルバムを聴くまでフアナ・モリーナ(&アルゼンチン音響派)はあまりよく知りませんでした。が、しかし! 1曲目の変拍子からノックアウト。かっこいい! これはロックファンにもウケるアルバムだと思います。調子にのってブルーノート東京の来日公演も聴きに行ってしまった…(実際に近くで見た彼女は大変チャーミングな方でした)。

Wed 21



●Macaxeira Fields / Alexandre Andres
これまたブラジル・ミナスの若きシンガーソングライターの2ndアルバム。ここには、前述のMisturada Orquestraと同様、アントニオ・ロウレイロやハファエル・マルティニといったミナスの新世代アーティスト達が集まっており、音楽監督はピアニストのアンドレ・メマーリ。ブラジルの自然や風景を感じるような優しいサウンドが全体を包みます。ビートルズの明らかな影響も随所に顔を覗かせ、ミルトン・ナシメントロー・ボルジェスなどミナス旧世代との共通項も発見できます。心地よいアルバム。

マカシェイラ・フィールズ



●Live Today / Derrick Hodge
去年はロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』に興奮した私ですが、今年出た『ブラック・レディオ2』は、個人的には全然面白く聞こえず…(たぶん単純な好みの問題)。今年は、同じロバ・グラ関連でもベーシスト、デリック・ホッジのアルバムにハマりました。でも、たぶん従来のオーディオ&スピーカーシステムで再生してもキレイに聞こえません。ヘッドフォンで聴くのがこの作品のニュアンスを楽しむためにはベター。1月のブルーノートが楽しみです。

Live Today



●LE KEMONO INTOXIQUE / KEMONOツボ
ボーカリスト青羊(あめ)のソロユニット「KEMONO」のアルバム(菊地成孔プロデュース)。腕利きの若手ジャズメンの演奏にのせて、青羊の歌う「摩訶不思議」かつ「官能的」かつ「文学的」なオリジナルソングが個人的にツボ、いやドツボ! サウンドのみならず歌詞がとにかく秀逸。M2、M4、M5、M8とくに好き。ジャジーなポップソングの新しい可能性を感じました。

LE KEMONO INTOXIQUE



AOR / Ed Motta
英語版もありますが、私はポルトガル語バージョンを買いました。70年代〜80年代のAORワインが熟成して2013年ブラジルでとつぜん封が開き芳醇な香りをぷんぷんさせている、そんなユニークなアルバム。聴いていて頭に浮かぶのはドナルド・フェイゲンの顔(笑)なのに、ジャケットには巨漢のオヤジが(笑)。来日公演も楽しかった、まさにマニアックな「大トロ」才人の快作です。

AOR



(以下、次点の扱いですが、ほぼ上の10枚と遜色ないくらい聴きまくりました。こちらもおすすめです)


●Motivo / Rafael Martini
これまたミナス系。上述のハファエル・マルティニのソロ。一度この音を生で聴いてみたい!このアルバムについてはディスクユニオンさんの紹介文が私の言いたいことをほぼ全て言ってくれていますのでご参考までに 
http://diskunion.net/latin/ct/news/article/1/33115


●Finas Misturas / Antonio Adolfo
エリス・ヘジーナやカルロス・リラなどとの仕事で知られるブラジルのベテランピアニストの単独名義作。コルトレーンビル・エヴァンスキース・ジャレットチック・コリアといったジャズ・ジャイアント達のナンバーをブラジル的アレンジと演奏で奏でる、まさに「融合」のアルバム。その洗練された音にうっとりすること必至。

●TANGOFIED / Torben Westergaard, Diego Schossi
デンマークのベース奏者とアルゼンチンのピアニストの共作。タンゴ・ジャズと呼んでよいのか、ピアソラ的な情熱と冷徹さがぶつかるような音楽的刺激に満ちたアルバムです。しびれます(古い?)。

●Never My Love: The Anthology / Danny Hathaway
ご存じダニー・ハザウェイの4枚組アンソロジー。ベストアルバム仕立ての1枚目は神構成w。




その他、私が聴いた中ではこんな新譜も素晴らしかったです。何枚かご紹介しますね。


(南米関係)
●So / Antonio Laureiro(2012発)
●Trinta / Patricia Marx
●MAR DO MEU MUNDO / Paula Santoro
BEATLES / UAKTI
●UM / Dani & Debora Gurgel Quarteto
Uma travessia 50 anos de carrieira ao vivo / Milton Nascimento


(POP & ROCK関係)
●Album 2 / Louis Cole
●Crimson/Red / Prefab Sprout
●The Next Day / David Bowie
●Wise Up Ghost and other songs 2013 / Elvis Costello and The Roots
●SOLID BOND / naomi & goro
●new age / (((さらうんど)))
●Searching For SUGAR MAN original motion picture soundtrack / RODORIGUEZ


(Jazz関係)
●Without a Net / Wayne Shorter
●Magnetic / Terence Branchard
●Uberjam Deux / John Scofield
●Live in NYC / Gretchen Parlato


また、旧譜では、Renato Braz, Roberto Taufic & Eduardo Taufic, Guinga, Dario Jalfin(これもロックファンにおすすめ)あたり。あとはジスモンチとジョビン関連をよく聴きました。


来年も、刺激的な音楽体験が私にも皆さんにもたくさん訪れますように! 皆さんよいお年をお迎えください。

もう12月。ということで今年のアルバム私的ベスト10などを

バタバタと時は過ぎ、気づけば今年もあと1ヵ月をきりました。引っ越し段ボールはまだ一部屋を独占し、住所変更のお知らせも滞るなか、年末進行の仕事に追われ、なんとなくこのまま年を越してしまわないように音楽を楽しむ時間を作っていかねばと思っております。
さて、今年もいろいろとCD、アナログ盤、新譜も旧譜再発モノも中古盤もさまざまに聴いてきましたが、昨年からの中南米熱は今年も健在。そのあたりのアーティスト作品を中心に聴いた1年でありました。スピネッタのように、Twitterでフォローさせていただいている音楽愛好家の皆さんからの情報をいただき聴き始めたアーティストも多く、この場を借りて関係の皆様に御礼申し上げます。出会いとは、こんなところにもあるんですねw。
スピネッタは、その訃報によって彼の音楽に触れることになったことは残念でしたが、彼の音楽は死してなお輝きを増しているようにも思えます。彼をはじめ今年は、ミュージシャンや作曲家、作詞家、音楽関係のビッグスターたちが多く鬼籍に入った(印象のある)年だったように思います。ちょっと思い出すだけでも、スピネッタ、ロビン・ギブ、ドナ・サマードナルド・ダック・ダン、チャック・ブラウン、エタ・ジェイムズ、ホイットニー・ヒューストンデイビー・ジョーンズ、リヴォン・ヘルム、ボブ・ウェルチエイミー・ワインハウス柳ジョージジョン・ロード尾崎紀世彦ジョニー吉長、ハル・デヴィッド、あと桑名正博、そしてデイヴ・ブルーベック…まだまだ多くの訃報に接してきた気がします。寂しいですが、願わくば彼らの音楽が彼らの死を超えてより多くの人々に届き、これまで以上の評価を得て輝きますように。そんなことを願いながら一年を振り返っております。


今年よく聴いたアルバムから私的ベスト10をリストアップしてみました。
まずは新譜から

1.エスペランザ・スポルディング『RADIO MUSIC SOCIETY』(DVD付き)
 →何と言っても私の2012年はこの1枚。東京JAZZで見せてくれたライブの完全版を来年3月に見るのが楽しみです。

2.クァンティック & アリス・ラッセル with コンボ・バルバーロ『LOOK AROUND CORNER』
 →聴いていて気持ちがウキウキしてくる1枚でした。

3.マリオ・アジネー『VINICIUS&OS MAESTROS』
 →日本では今年出たので2012年に入れましたが、ヴィニシウス・モライスの名曲をギター+オーケストレーション。洗練とはこのことでござる。

4.オマール・ソーサ & パオロ・フレス featuring ジャキス・モレレンバウムAlma
 →これまた、ピアノとラッパの奏でる静謐な世界。これもいいですよー。

5.伊藤ゴロー『GLASHAUS』
 →ひとこと、素敵です。

6.ジョイス・モレーノ『TUDO』
 →一筋縄ではいかないジャズアレンジが好みです。

7.ロバート・グラスパー・エクスペリメント『BLACK RADIO』
 →まあ、2012年では外すことができないエポックメイキングな作品。ヒップホップとジャズの鮮やかな融合。

8.ジョー・バルビエリ『RESPIRO』
 →ライブにも行きました。温かい歌声と小粋な楽曲。いいわ〜

9.ペトゥラ・クラーク『PETULA』
 →御年80数歳とは思えぬアイドル感。あまり話題になりませんでしたが大変よいヴォーカルアルバムだと思います。

10.メロディ・ガルドー『ABSENS』
 →この人もエスペランザとともに私の中では別格の存在です。アルバムで世界旅行してましたね。

ベスト10入りはしませんでしたが、このあたりもよく聴きました(現在聴いているものもあります)。
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ『CUT THE WORLD』
グレゴリー・ポーター『BE GOOD』
ヴィニシウス・カントゥアリア『INDIO DE APARTAMENTO』
ヴァグネル・チゾ『A OSTRA E O VENTO』
シミ・ラボSIMI LAB『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』
村山浩『FIRST DRAGON』


旧譜・中古盤の2012ベスト10は、こんな面々です。

1.ルイス・アルベルト・スピネッタ『SILVER SORGO』
2.ルイス・アルベルト・スピネッタ『UN MANANA』
3.エリス・ヘジーナ『ELIS 1973』
4.ギル・エヴァンス『THE INDIVIDUALISM OF GIL EVANS』
5.ユーリ・ポポフLUA NO CEU CONGADEIRO』
6.レス・マッキャン『COMMENT』
7.ホセ・アントニオ・メンデス『ESTE ES JOSE ANTONIO』
8.エグベルト・ジスモンチ『AGUA & VINHO』
9.ノラ・サルモリア『VUELO UNO』
10.マイルス・デイヴィス『THE COMPLETE JACK JOHNSON SESSIONS』

去年はミルトン・ナシメントにハマりましたが、スピネッタと出会えた2012年にも感謝したいです。この2枚以外にもアルメンドラなどのバンド時代のアルバムも面白い。ギル・エヴァンスは以前は1980年のパブリック・シアターのライブ盤とマイルスとの共作盤あたりしか持っていなかったのですが、年末に再発された『個性と発展』『アウト・オブ・ザ・クール』を聴いてぶっ飛びましたw。たぶん、これから突っ込んで聴くことになりそうです。

旧譜・中古盤次点(同率)
タジ・マハール『THE HIDDEN TREASURES OF TAJ MAHAL 1969-1973』
ホベルトギマランエス『SAUDADE DE MIM』


来年もいい音楽にノックアウトされたいものです。

50歳になったカセットテープ(…同期か…)

カセットテープが生まれて50年経ったのだという。Twitter上でも、カセットテープの想い出を語り合うスレッドができていて、自分でもあれこれカセットテープのことを考えてみたけれども、そういえば頭出しの機能に初めて触れた時に感動したことをふと思い出した。

カセットテープはA面とB面をもち、時間を追って頭から聴き進めていくのに適した(いかざるを得ない)メディアだ。一度再生ボタンをカチッと押すと、あとは基本的にA面の頭からエンドへ、裏返してB面の頭からエンドへと聴いていく。だからこそ、曲の冒頭の無音部を見つけ頭出しをしてくれる機能が出たときは、「A〜B」の長い道程を徒歩で辿るお遍路にも似た旅に、自転車かバイクが登場したような利便性を感じたのだ。
ランダムに早送り、巻き戻しができる機能も存在したかどうかは不勉強につき知らないが、その機能をもってしてもA面とB面の間に厳然としてある壁は越えることができない。また、同じA面B面をもつLPレコードならば、少なくとも同じ面の中であれば盤面を俯瞰して針をまるでヘリコプターのように好きなポイントに下ろすことができるし、自由に前後を行き来することもできるが、カセットテープでは、基本的にはリニアな一本道を進むしかない。そういう意味で、カセットテープはA面とB面という2つのルートを徒歩で旅するように、より音楽を時系列に従って聴くことを運命づけられたメディアであったのかなと思う。

その後MDやCDが出て、曲のピックアップは簡単にできるようになった。アトランダムな再生もできるようになり、今や個別の曲をバラバラに聴く人の方が多いのかもしれない。
カセットテープの衰退(引退)とともに音楽の聴き方が大きく変わっていったように個人的には感じているのだが、カセットテープ世代の私などは、いまだにアルバムCDは頭から順に流れを追っていってしまう。そして流れや構成のなかに作家の意図を読み取ろうとする。これはどうしようもない性である。コンセプトアルバムでもないのに、ついつい裏読みをしてしまう。

同年代の友達がかつて言っていたが、CDの時代になってからもアルバムの1曲目と5曲目、6曲目をまずチェックしてしまうそうだ。つまり、その3曲とは、LPとカセットテープ時代でいうA面の1曲目(キャッチーな曲やヒット曲)、A面のラスト(シングル曲や自信作が入っていることが多い)、B面の1曲目(これもキャッチーないい曲が配備されることが多かった)にあたる。あくまでポピュラーミュージックの例だが、これはまったく自分も同じことをしていた。そんな癖を見つけるたびに、ああオレもアナログ世代なんだなと思ってしまうのですね。
最近読んだ『スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法』(ドン・ブライトハウプト著、奥田祐士訳 DU BOOKS 発行)という本でも、スティーリー・ダンの名作アルバム『Aja』の曲順が、Cメジャーで始まりAメジャーで終わる1曲目→まる1音高いBメジャーではじまりBm11で終わる2曲目→半音高いCメジャーで始まる3曲目……という風にロジカルな流れを構成しているという記事(同書籍109頁以降)が書いてあって、このあたりにも「時系列アルバム聴取派」としてはニヤリとさせられるわけです。

カセットテープにまつわる想い出はいろいろあるし、今でもカセットテープデッキは所有していて、何本かはいまだに捨てられないでいるテープもある。まだまだカセットテープを使う機会はあるかもしれない。磁気テープ類がHDD(ハードディスクドライブ)よりも記録メディアとして優れている点もあり再評価され始めているという記事も最近読んだ。誕生から50年、「がんばれ、カセット!」と心の中で静かにエールを送る私がいるのであった。

さて、ずいぶんご無沙汰してしまったブログ更新ですが、この10月に引っ越しをしまして、仕事もあれこれあって間が空いてしまいました。まだまだ段ボールの山に埋もれているような次第ですが、生活が落ち着いてくれば再開しようと思います。今日はその第一弾ということで。ではまた。